この記事では、
- 医師の応招義務の基本的な考え方
- 診療の求めに応じないことが正当化される場合の考え方と具体例
について、まとめています。
医師の応招義務については、
「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について (令和元年12月25日)」
という通達が厚生労働省から出ていますが、この通達、かなり読みづらいです・・・(僕だけかもしれませんが)
そこで、「こんな通達、2度と読まないぞ~」という思いを込め、備忘録的に、わかりやすく整理してみました。
こんな人に読んでいただけると嬉しいです。
- 医師として、患者対応(激務)で苦しんでいる
- 医療機関等で労務管理を担当している
- 厚生労働省の通知なんか、読みたくない
医師の応招義務は、「医療法第19条第1項」に定められている
応招義務とは、
「診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。」
という、医師法第19条第1項の定めによるものです。
この条文だけ読んじゃうと、「医師は、なんでもかんでも患者を診察しないとダメ!」みたいに思っちゃいますが、実際はそうではありません。
応招義務の基本的な考え方
厚生労働省の応招義務の通達によると、
「医師法第19条第1項に規定する応招義務は、 医師が国に対して負担する公法上の義務であり、医師の患者に対する私法上の義務ではないこと。 」
とされています。
また、 労使協定・労働契約の範囲を超えた診療指示等については、
「使用者と勤務医の労働関係法令上の問題であり、医師法第19条第1項に規定する応招義務の問題ではないこと。」
とされています。
つまり、
- そもそも、応招義務とは、医師が患者に対して負う義務ではない
- 勤務時間外の診療などにおいては、応招義務が問題になることはない
ってことです。
診療の求めに応じないことが正当化される場合
では具体的に、
- 医療機関の対応として、どのような場合に患者を診療しないことが正当化されるのか?
- 医師個人の対応として、どのような場合に患者を診療しないことが応招義務に反するのか?
について説明していきます。
なお、応招義務に反するかどうかの判断は、次の3つが重要な指標となります。
- 緊急対応が必要かどうか?(病状の深刻度)
- 診療を求められたのが診療時間かどうか?
- 勤務時間内であるか?
緊急対応が必要な場合(病状の深刻な救急患者等)
まずは、緊急対応が必要な患者の場合を見ていきます。
診療を求められたのが診療時間内・勤務時間内である場合
次の3つを、総合的に勘案しつつ、事実上診療が不可能といえる場合にのみ、診療しないことが正当化されます。
- 医療機関・医師の専門性・診察能力
- 当該状況下での医療提供の可能性・設備状況
- 他の医療機関等による医療提供の可能性(医療の代替可能性)
診療を求められたのが診療時間外・勤務時間外である場合
応急的に必要な処置をとることが望ましいですが、原則、公法上・私法上の責任に問われることはありません。
ちなみに、必要な処置をとった場合においても、医療設備が不十分なことが想定されるため、求められる対応の程度は低いです。(例えば、心肺蘇生法等の応急処置の実施など)
緊急対応が不要な場合(病状の安定している患者等)
次に、緊急対応が必要ない患者の場合です。
診療を求められたのが診療時間内・勤務時間内である場合
原則として、患者の求めに応じて必要な医療を提供する必要があります。
診療を求められたのが診療時間外・勤務時間外である場合
即座に対応する必要はなく、診療しないことは正当化されます。
ただし、 「時間内の受診依頼、他の診察可能な医療機関の紹介等の対応をとることが 望ましい」とされています。
医師の応招義務にかかる、患者を診療しないことが正当化されるかどうかの判断基準
上記の「診療の求めに応じないことが正当化される場合」を一覧表にすると、こんな感じになります。
こっちの方が、パッと見で、わかりやすいと思います。
【エクセルデータのダウンロード(無料)】
「応招義務の判断基準一覧」のデータを置いておきます。
使えそうなら、使ってください。
各事例に対する、応招義務の考え方
患者を診療しないことが応招義務に反するかどうかについて、個別例を紹介しておきます。(応招義務の通達より)
患者の迷惑行為
診療・療養等において生じている迷惑行為の態様に照らし、診療の基礎となる信頼関係が喪失している場合には、新たな診療を行わないことが正当化されます。
医療費不払い
以前に医療費の不払いがあったとしても、そのことのみをもって診療しないことは正当化されません。
しかし、支払能力があるにもかかわらず悪意を持ってあえて支払わない場合等には、診療しないことが正当化されます。
具体的には、保険未加入等医療費の支払い能力が不確定であることのみをもって診療しないことは正当化されませんが、医学的な治療を要さない自由診療において支払い能力を有さない患者を診療しないこと等は正当化されます。
また、特段の理由なく保険診療において自己負担分の未払いが重なっている場合には、悪意のある未払いであることが推定される場合もあります。
入院患者の退院や他の医療機関の紹介・転院等
医学的に入院の継続が必要ない場合には、通院治療等で対応すれば足りるため、退院させることは正当化されます。
医療機関相互の機能分化・連携を踏まえ、地域全体で患者ごとに適正な医療を提供する観点から、病状に応じて大学病院等の高度な医療機関から地域の医療機関を紹介、転院を依頼・実施すること等も原則として正当化されます。
差別的な取扱い
患者の年齢、性別、人種・国籍、宗教等のみを理由に診療しないことは正当化されません。
ただし、言語が通じない、宗教上の理由等により結果として 診療行為そのものが著しく困難であるといった事情が認められる場合にはこの限りではありません。
このほか、特定の感染症へのり患等合理性の認められない理由のみに基づき診療しないことは正当化されません。
ただし、1類・2類感染症等、制度上、 特定の医療機関で対応すべきとされている感染症に罹患しているまたは、その疑いのある患者等についてはこの限りではありません。
訪日外国人観光客をはじめとした外国人患者への対応
外国人患者についても、診療しないことの正当化事由は、日本人患者の場合と同様に判断するのが原則となります。
外国人患者については、文化の違い(宗教的な問題で肌を見せられない等)、言語の違い(意思疎通の問題)、(特に外国人観光客について)本国に帰国することで医療を受けることが可能であること等、日本人患者とは異なる点があるが、これらの点のみをもって診療しないことは正当化されません。
ただし、文化や言語の違い等により、結果として診療行為そのものが著しく困難であるといった事情が認められる場合にはこの限りではありません。
まとめ
ここで、「医師の応招義務の考え方」についておさらいです。
- 応招義務とは、医師が患者に対して負う義務ではない
- 勤務時間外の診療などにおいては、応招義務が問題になることはない
- 診療時間内においては、原則、診療する必要があるが、診療が不可能な場合には、診療しないことが正当化される
「医師は、労働者じゃない!」とか、「医師は、患者の診療を断っちゃいけない!」」といった崇高な価値観をお持ちの先生もいらっしゃるかもしれませんが、法律上は、診療時間外や労働時間外は診療の義務はありません。
なので、応招義務という鎖に縛られて、自分を苦しめてしまわないようにしてください。
医師だって、普通の労働者ですからね。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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