「診察なしで、薬だけもらえませんか?」
「家族が代わりに受診して、薬をもらうことはできますか?」
外来患者さんから、こういう相談を受けることってありますよね?
で、医療機関によっては、独自のルールを設けて薬を処方してたりします。
たしかに、待ち時間が短くなるなど、患者さんにとって、メリットがあるんでしょうが、どちらも原則禁止です。
このルール、医療機関で働いている人なら知っている人が多いかと思いますが、法的根拠まで把握している人は少ないように思います。
そこで、この記事では、「無診察治療と代理受診の処方箋の発行ルール」についてまとめておきます。
無診察治療等の禁止【医師法第20条】
診察をしないで処方箋を交付することは、次のとおり、医師法により禁止されています。
【医師法】
第二十条 医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。
但し、診療中の患者が受診後二十四時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りでない。
また、医療機関の管理者等を対象に、厚生局が定期的に行っている「集団指導」においても、次のように指導されています。
保険診療の理解のために【医科】(令和4年度)
(5) 無診察治療等の禁止(第20条)
医師は自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付してはならない(保険診療としても当然認められない。)。
無診察治療とは
例えば、定期的に通院する慢性疾患の患者に対し、診察を行わず処方せんの交付のみをすること。
実際には診察を行っていても、診療録に診察に関する記載が全くない場合や、「薬のみ」等の記載しかない場合には、後に第三者から見て無診察治療が疑われかねない。
このようなことを避けるためにも診療録は十分記載する必要がある。
(6) 処方せんの交付義務(第22条)
医師は、患者に対し治療上薬剤を調剤して投与する必要があると認めた場合には、患者又は現にその看護に当たっている者に対して処方せんを交付しなければならない。
はっきりと、
- 医師は自ら診察しないで治療をし、処方箋を交付してはならない
- 定期的に通院する慢性疾患の患者に対し、診察を行わず処方せんの交付のみをすることは無診察治療になる
と明記されています。
もちろん、初診・再診に関わらず、診察をせず処方箋を交付することは禁止です。
ちなみに、「無診察診療等の禁止(医師法第20条)」や「処方せんの交付義務(医師法第22条)」の規定に違反した場合は、50万円以下の罰金を処せられます。
代理受診は、原則禁止だが、例外あり
代理受診とは、患者本人が受診せず、家族等の看護にあたっている人が代わりに診察を受けることをいいます。
この代理受診については、「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(通知)別添1の医科診療報酬点数表に関する事項」にて、次のように明記されています。
(7) 外来管理加算
カ 投薬は本来直接本人を診察した上で適切な薬剤を投与すべきであるが、やむを得ない事情で看護に当たっている者から症状を聞いて薬剤を投与した場合においても、再診料は算定できるが、外来管理加算は算定できない。
ポイントは、
- 原則、直接本人を診察した上で適切な薬剤を投与する
- やむを得ない事情であれば、看護に当たっている人から症状を聞いて薬剤を投与してよい
の2点です。
つまり、代理受診は、やむを得ない事情があれば、法的に問題はないってことです。
ちなみに、代理受診は再診時において認められているものであり、初診患者について、家族等による代理受診はできません。(そう解釈しています)
電話による診察で、薬の処方は可能なのか?
電話による診察では、原則、薬の処方はできません。
ただし、令和2年4月10日から令和5年7月31日の期間については、「新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱い」により、初診・再診問わず、電話による診察でも薬の処方が可能です。
一応、法的根拠です。
2.電話や情報通信機器を用いた診療等に係る特例
(1)電話や情報通信機器を用いた診療等に係る特例の期限について電話や情報通信機器を用いた診療等に係る特例については、以下の(2)及び(3)のとおりであり、当該特例については、令和5年7月31日をもって終了する。
(2)初診料等に係る特例について
① 初診からの電話や情報通信機器を用いた診療により診断や処方を行う場合について、A000 初診料の注2に規定する点数(214 点)を算定できる。
また、医薬品の処方を行い、又はファクシミリ等で処方箋情報を送付する場合は、調剤料、処方料、処方箋料、調剤技術基本料又は薬剤料を算定することができる。
なお、本取扱いにより214点を算定する保険医療機関であって、令和5年8月以降も情報通信機器を用いた診療を行おうとするものについては、A000 初診料の注1ただし書きに規定する点数(251点)を算定できるよう、令和5年7月31 日までに情報通信機器を用いた診療に係る施設基準を届け出ること。
② 慢性疾患等を有する定期受診患者等に対し、電話や情報通信機器を用いた再診により診断や処方を行った場合には、電話等再診料(73点)又は外来診療料(74点)を算定できる。また、医薬品の処方を行い、又はファクシミリ等で処方箋情報を送付する場合は、調剤料、処方料、処方箋料、調剤技術基本料又は薬剤料を算定することができる。
本取扱いにより外来診療料を算定する場合には、診療報酬明細書の摘要欄に電話等による旨及び当該診療日を記載すること。また、診療録への記載については、電話等再診料の規定に基づいて対応されたい。
なお、本取扱いにより電話等再診料又は外来診療料を算定する保険医療機関であって、令和5年8月以降も情報通信機器を用いた診療を行おうとするものについては、A001 再診料又はA002 外来診療料注1ただし書きに規定する点数(73点)を算定できるよう、令和5年7月31日までに情報通信機器を用いた診療に係る施設基準を届け出ること。
出典:厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけの変更に伴う新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いについて(事務連絡 令和5年3月31日)」
オンライン診療(情報通信機器を用いた診療)は、電話でもOKか?
オンライン診療では、リアルタイムの視覚および聴覚の情報を含む情報通信手段でなければならないため、電話によるオンライン診療はできません。
同様に、
- 電子メール
- SNS
- チャット
など、文字や写真のみによって得られる情報により診察を行うことも認められていません。
なお、オンライン診療について詳しくは、こちらのページを。
まとめ
ここで、「無診察治療と代理受診における処方箋の発行ルール」についておさらいです。
- 医師は診察をしないで、処方箋を発行することはできない
- 初診患者における家族等の代理受診は不可
- 再診患者における家族等の代理受診は可(やむを得ない事情の場合)
- 電話による診察で、薬の処方はできない(令和2年4月10日~令和5年7月31日の期間を除く)
- 電話によるオンライン診療は不可
「患者さんのために!」って思ってやったことでも、違法になっちゃうことがあります。
そうならないように、制度の理解を深め、適切に判断していきたいですね。
わかりづらい通知が多いですけどね・・・
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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