病院などの医療機関において、診療報酬を算定するときの起算日となる入院日の取扱いは、すっごく重要です。
というのも、入院日(起算日)によって入院基本料の点数が変わったり、加算の算定ができたり、できなかったりするからです。
つまり、診療報酬が大きく変わってくるってことです。
そこで、この記事では、診療報酬における
- 入院日、入院期間の考え方(計算方法)
- 再入院における入院日の取扱い
- 再入院における算定ルール
について、まとめておきます。
こんな人に読んでいただけると嬉しいです。
- 医療事務の仕事をしている
- 病棟の管理業務を行っている(看護部長、看護師長など)
- 医療機関で、施設基準等の管理を担当している
診療報酬における「入院日」「入院期間」とは?
診療報酬における入院日とは、入院基本料等の起算日となるものです。
そして、入院期間とは、起算日(入院日)から計算されるものです。
たとえば、
- 入院日(起算日) 3/1
- 退院日 5/31
なら、入院期間は「3ヶ月(この場合は、92日間)」となります。
って、「あたりまえでしょ!?」って感じですよね。
ただ、入院日の取扱い(考え方)には、いくつかのルールがあるので、単純なケースばかりじゃないんです。
なので、わかりやすくするために、いくつかのケースにわけて、ルールを説明していきます。
A病院に入院したことがない患者が、A病院に入院した場合
入院日(起算日)は、患者が入院した日になります。
自宅からの入院は、もちろん、他の保険医療機関からの転院についても同様の取扱いです。
こんなイメージです。
【転院における基本的な考え方】
ただし、A病院と特別の関係にある保険医療機関からの入院は、特別の関係にある保険医療機関の入院日がA病院の入院日(起算日)となります。
【特別の関係にある医療機関からの転院】
なお、言うまでもありませんが、入院後、保険種別の変更などがあっても、入院日(起算日)が変わることはありません。
入院中に入院時とは別の傷病に罹り、他の病棟に移った場合
入院日(起算日)は、転棟した日ではなく、最初に入院した日となります。
こんな感じです。
【同一医療機関内での転棟】
A病院を退院後、前回と異なる傷病で、A病院に再入院した場合
入院日(起算日)は、患者が再入院した日になります。
【別の傷病での再入院】
A病院を退院後、同一傷病で、A病院に再入院した場合
再入院の日ではなく、最初に入院した日を入院日(起算日)とします。
【同じ傷病での再入院】
ただし、次のいずれかに該当する場合は、再入院した日が入院日(起算日)となります。
- 急性増悪その他やむを得ない場合
- 退院後、一旦治癒、もしくは治癒に近い状態にまでなり、その後、再発した場合
- 退院後、3ヶ月以上(悪性腫瘍、指定難病、特定疾患患者は1ヶ月以上)、同一疾患について、いずれの保険医療機関への入院や介護老人保健施設に入所していなかった場合
入院日(起算日)および入院期間における法的根拠
参考までに、根拠を載せておきます。
入院日・入院期間
第2部 入院料等 通則
5 第1節から第4節までに規定する期間の計算は、特に規定する場合を除き、保険医療機関に入院した日から起算して計算する。
ただし、保険医療機関を退院した後、同一の疾病又は負傷により、当該保険医療機関又は当該保険医療機関と特別の関係にある保険医療機関に入院した場合には、急性増悪その他やむを得ない場合を除き、最初の保険医療機関に入院した日から起算して計算する。
診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について
令和4年3月4日 保医発0304第1号
第2部 入院料等 通知
7 入院期間の計算
(1) 入院の日とは、入院患者の保険種別変更等の如何を問わず、当該保険医療機関に入院した日をいい、保険医療機関ごとに起算する。
また、A傷病により入院中の患者がB傷病に罹り、B傷病についても入院の必要がある場合(例えば、結核で入院中の患者が虫垂炎で手術を受けた場合等)又はA傷病が退院できる程度に軽快した際に他の傷病に罹り入院の必要が生じた場合においても、入院期間はA傷病で入院した日を起算日とする。
(2) (1)にかかわらず、保険医療機関を退院後、同一傷病により当該保険医療機関又は当該保険医療機関と特別の関係にある保険医療機関に入院した場合の入院期間は、当該保険医療機関の初回入院日を起算日として計算する。
ただし、次のいずれかに該当する場合は、新たな入院日を起算日とする。
ア 1傷病により入院した患者が退院後、一旦治癒し若しくは治癒に近い状態までになり、その後再発して当該保険医療機関又は当該保険医療機関と特別の関係にある保険医療機関に入院した場合
イ 退院の日から起算して3月以上(悪性腫瘍、難病の患者に対する医療等に関する法律(平成26年法律第50号)第5条第1項に規定する指定難病(同法第7条第4項に規定する医療受給者証を交付されている患者(同条第1項各号に規定する特定医療費 の支給認定に係る基準を満たすものとして診断を受けたものを含む。)に係るものに限る。)又は「特定疾患治療研究事業について」(昭和48年4月17日衛発第242号)に掲げる疾患(当該疾患に罹患しているものとして都道府県知事から受給者証の交付 を受けているものに限る。ただし、スモンについては過去に公的な認定を受けたことが確認できる場合等を含む。)に罹患している患者については1月以上)の期間、同一傷病について、いずれの保険医療機関に入院又は介護老人保健施設に入所(短期入所療養介護費を算定すべき入所を除く。)することなく経過した後に、当該保険医療機関又は当該保険医療機関と特別の関係にある保険医療機関に入院した場合
特別の関係とは?
他の保険医療機関であっても、原則、入院期間が通算される「特別の関係にある保険医療機関」とは、次のとおりです。
診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(通知)
令和4年3月4日 保医発0304第1号
「特別の関係」とは、次に掲げる関係をいう。
ア 当該保険医療機関等と他の保険医療機関等の関係が以下のいずれかに該当する場合に、当該保険医療機関等と当該他の保険医療機関等は特別の関係にあると認められる。
(イ) 当該保険医療機関等の開設者が、当該他の保険医療機関等の開設者と同一の場合
(ロ) 当該保険医療機関等の代表者が、当該他の保険医療機関等の代表者と同一の場合
(ハ) 当該保険医療機関等の代表者が、当該他の保険医療機関等の代表者の親族等の場合
(ニ) 当該保険医療機関等の理事・監事・評議員その他の役員等のうち、当該他の保険医療機関等の役員等の親族等の占める割合が10 分の3を超える場合
(ホ) (イ)から(ニ)までに掲げる場合に準ずる場合(人事、資金等の関係を通じて、当該保険医療機関等が、当該他の保険医療機関等の経営方針に対して重要な影響を与えることができると認められる場合に限る。)
イ 「保険医療機関等」とは、保険医療機関である病院若しくは診療所、介護老人保健施設又は指定訪問看護事業者をいう。
ウ 「親族等」とは、親族関係を有する者及び以下に掲げる者をいう。
(イ) 事実上婚姻関係と同様の事情にある者
(ロ) 使用人及び使用人以外の者で当該役員等から受ける金銭その他の財産によって生計を維持しているもの
(ハ) (イ)又は(ロ)に掲げる者の親族でこれらの者と生計を一にしているもの
ポイントを抜き出すと、
- 開設者が同じ保険医療機関等
- 代表者が同じ保険医療機関等
- 代表者の親族が、代表者となっている保険医療機関等
って感じです。
つまり、理事長が同じだったり、理事長の親族が代表を務めている場合は、「特別の関係」に該当するってことです。
再入院患者の診療報酬の算定ルール
わかりやすく、再入院における
- 認知症治療病棟入院料(特定入院料)
- 入院精神療法(特掲診療料)
- 一般病棟入院基本料(入院基本料)
について、算定例を載せておきます。
認知症治療病棟入院料1
【条件】
- 初回入院 7/1~
- 退院 7/31
- 他の医療機関へ入院 7/31~8/31
- 再入院 9/1~
【診療報酬(1日あたり)】
- イ 30日以内の期間 1,811点
- ロ 31日以上60日以内の期間 1,503点
- ハ 61日以上の期間 1,204点
上記の条件で算定すると、次のようになります。
入院期間 | 算定内容 |
7/1~7/30 | イの1,811点を算定(30日間) |
7/31 | ロの1,503点を算定(1日間) |
9/1~9/29 | ロの1,503点を算定(29日間) |
9/30~ | ハの1,204点を算定 |
つまり、他の医療機関へ入院していた「8/1~8/31(31日間)」を控除した期間で算定するってことです。
入院精神療法(Ⅰ)
【条件】
- 初回入院 7/1~
- 退院 7/31
- 他の医療機関へ入院 7/31~8/31
- 再入院 9/1~10/31
【診療報酬(1日あたり)】
⇒入院の日から起算して、3月を限度として週3回に限り算定
上記の条件で算定すると、次のようになります。
入院期間 | 算定内容 |
7/1~7/31 | (Ⅰ)の400点を週3回まで算定(31日) |
9/1~10/31 | (Ⅰ)の400点を週3回まで算定(61日) |
「7/1が起算日になるから、入院精神療法(Ⅰ)の算定は、9/30までかな?」って思うかもですが、実際は違います。
入院料と同様、他の医療機関へ入院していた「8/1~8/31(31日間)」を控除した期間で算定することができます。
ちなみに、入院精神療法における算定根拠としては、第8部精神科専門療法の入院精神療法の通知(7)に「入院の日及び入院の期間の取扱いについては、入院基本料の取扱いの例による。」と、はっきり書いてあります。
一般病棟入院基本料(入院期間に応じた加算)
【条件】
- 初回入院 7/1~7/14
- 自宅へ退院 7/18
- 再入院 8/1
【診療報酬(1日あたり)】
- イ 14日以内の期間 450点
- ロ 15日以上30日以内の期間 192点
上記の条件で算定すると、次のようになります。
入院期間 | 算定内容 |
7/1~7/14 | イの450点を算定(14日間) |
7/15~7/18 | ロの192点を算定(4日間) |
8/1~8/12 | ロの192点を算定(12日間) |
8/13~ | 入院期間に応じた加算なし |
7/18の退院時点では、加算が算定できる30日以内の残日数は、12日間です。
同一傷病で再入院した場合は、起算日が初回入院日(7/1)となるため、加算は、残りの12日間しか算定できません。
ちなみに、算定根拠としては、一般病棟入院基本料の通知(3)に「「注3」の加算に係る入院期間の起算日は、第2部通則5に規定する起算日とする。」と書いてあります。
診療報酬明細書の入院欄に、入院起算日が表示される
入院日(起算日)は、診療報酬明細書の入院欄「入院年月日」に記載します。
赤く囲った部分です。
なお、起算日となる入院日は、入院欄「入院年月日」ですが、入院歴は、上記のとおり「診療開始日(青く囲った部分)」に表示されます。
まとめ
ここで、「再入院の日が、診療報酬上の起算日となる場合」についてまとめておきます。
- 前回の入院時とは違う傷病
- 急性増悪その他やむを得ない事由
- 退院後、一旦治癒(近い状態)後に再発
- 退院後、3ヶ月以上(または1ヶ月以上)、同一疾患で、いずれの病院などに入院しなかった
再入院における入院日(起算日)の取扱いって、わかりづらいですよね。
ただ、入院日(起算日)によって、診療報酬が大幅に変わる場合があるので、適切に判断し、極力、再入院にならないようにしたいですね。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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