
僕は、病院の事務責任者として、長くマネジメントに関わってきました。
その中で、色々なマネージャーから悩み相談を受けてきました。
悩みは、本当に多岐にわたります。
人員の確保、部署間の調整、数字の管理などなど。
その中で、特に新人マネージャーから繰り返し聞くのが、「注意」にまつわる悩みです。
たとえば、
- 注意ができない
- どう言えばいいのか分からない
- 注意して、嫌われたくない
などです。
このとき、「注意するというハードルを下げることができれば、マネジメントは楽になるのでは?」と感じました。
そこで、この記事では、
「注意するハードルを下げることが、マネジメントを楽にする近道だと考える理由とそのための方法」
について、考えたことをまとめておきます。
新人マネージャーやマネージャーを育てる立場の方など、色々な立場の方に読んでいただければ嬉しいです。
管理職になりたくない人が増えている
最近は、世の中全体で「管理職になりたくない」という人が増えていると聞きます。
理由はいろいろあると思います。
責任が重い、報酬に見合わない、仕事の幅が広すぎるなど、どれもそのとおりだと思います。
ただ、現場でマネージャーの悩みを聞いてきた実感として、その背景には「注意しなければならないストレス」が少なからず影響していると感じています。
たとえば、
- 部下に言いにくいことを言わなければならない
- 言ったら関係が悪くなるかもしれない
- 反発されるかもしれない
- 最悪、辞めてしまうかもしれない
など、これらのことが頭をよぎると、注意すること自体が大きな負担になります。
逆に、注意が「感謝される」としたら?
注意しても関係が壊れない。
むしろ、「言ってくれて有難う」と思ってもらえる。
そうなれば、注意は「嫌なこと」ではなく、「価値のあること」に変わります。
つまり、「注意するハードルは一気に下がる」ってことです。
ただ、誤解してほしくないことがあります。
それは、「感謝されることを目的にしてはいけない」ということです。
感謝を目的にすると、言いにくいことを言わなくなったり、言い方がマイルドになりすぎて伝わらなかったりします。
感謝は、あくまで結果として起きるものです。
また、「楽になる」というのは、注意しなくてよくなるという意味ではありません。
言うべきことを、必要なときに、過度に身構えずに言える。
そういった状態のことです。
そこで、僕が大事だと思っているのが、「注意=有難いこと」という職場環境をつくっていくということです。
「何を言うか?」より「誰が言うか?」
同じ言葉でも、信頼している人から言われれば助言として届き、そうでない人から言われると攻撃として届きます。
注意の場面では、「何を言うか?」よりも「誰が言うか?」が重要です。
そう考えると、注意の成否は、注意する瞬間よりも、注意する前の段階で、その大半が決まっていることになります。
つまり、
- 普段から良いところを具体的に伝えていて、「見てくれている人」だと思われている
- 注意が「評価を下げるもの」ではなく、「成長のための情報」として扱われている
- 注意のあとも関係が変わらず、むしろ改善を一緒に喜んでくれる
などの経験が積み重なることで、「注意された=悪いもの」という意識は、少しずつ薄れていきます。
ちなみに、注意するときは、人格ではなく行動に焦点を当てることも大切です。
「あなたはいつもこうだ」ではなく、「この場面でのこの行動を、こう変えてほしい」みたいな感じです。
これだけでも、相手の受け取り方は大きく変わります。
「注意は有難いもの」を浸透させた状態で、マネージャーを任せる
とはいえ、マネージャー個人の工夫だけでは限界があります。
受け取る側に「注意=自分への攻撃」という感覚が根づいていたら、どれだけ丁寧に伝えても届きにくいからです。
そこで、組織の価値観として「注意は有難いもの」を浸透させていくことが大事になります。
ここで、僕がこだわっているのは順番です。
マネージャーを任せてから「注意は有難いもの」という価値観を浸透させるのではなく、「注意は有難いもの」という価値観を職場に浸透させてから、マネージャーを任せる。
そうすれば、マネージャーになる前から、「注意」というハードルが下がった状態でスタートできます。
具体的には、次の2つの経験を、マネージャーになる前から積んでおくイメージです。
- 注意される側として:一般職の段階から、指摘を受けても評価が下がらず、むしろ成長につながったという経験を重ねる
- 注意する側として:先輩として後輩に指摘する機会を、小さな場面から持つ。昇進後の最初の注意が、「言う」こと自体の初体験にならないようにする
この2つの経験を積んでおけば、マネージャーになった時点で、注意はすでに「慣れた行為」になっています。
新人マネージャー個人に「注意の技術」や「覚悟」を求めるより、はるかに再現性が高い方法だと考えています。
もちろん、簡単ではありません。
価値観の浸透には時間がかかりますし、中途採用で別の文化を持った人が入ってくることもあります。
その間にも、現在のマネージャーたちの悩みは続いています。
そのため、短期的な支援と長期的な土壌づくりを並行させる必要があると考えています。
一丁目一番地は、マネージャーの育成
では、「土壌づくりをどこから始めるか?」ですが、僕は、マネージャーの育成が一丁目一番地だと考えています。
ほとんどの場合、マネージャーがその部署の環境をつくっていると言っても過言ではありません。
部下にとっての組織の価値観は、経営理念などの言葉ではなく、直属の上司の日々の振る舞い(関わり)によって構築されていくからです。
よって、マネージャーが変われば、職場の価値観(環境)は変わります。
マネージャーの育成については、業務中の日々の関わりだけでなく、しっかりと時間を取り、定期的な1on1などを通じて、価値観をアップデートしていくのが、僕としては効果的だと感じてます。
具体的には、
- 相手の困りごとを聞いて、「こう考えて対応したら?」と促す
- 「マネージャーの教科書(マネージャーとしての価値観を示したもの)」を渡して、1つずつ説明していく
などです。
ここで言う、「マネージャーの教科書」とは、あなたの職場において、「どういう価値観でマネジメントをしてほしいか?」を示したものです。
つまり、「口頭だけじゃなく、書面でも渡して、説明しましょう」ってことです。
書面があるのとないのとでは、効果は、段違いです。(悩んだときに見直すことができますし)
必ず、書面で渡すようにしましょう。
ちなみに、僕の場合は、書籍から学んだことなどを実際に試してみて、効果があったものを「マネージャーの教科書」としてまとめています。
作った目的の一つは、マネジメントを楽にすること、つまりマネージャーが苦しまないようにすることです。
そのため、教科書の内容を「こうあるべき」という正しさの押しつけとして渡してはいません。
あくまで、「こう考えると楽になりますよ」という1つの選択肢として、経験を共有するためのものとしています。
「それって理想論ですよね」と言われたら
1on1などを通じて、組織の価値観を伝えていると、きっとこう返されることがあります。
「それは理想論ですよね」
「うちの現場では無理です」
僕は、ここが価値観が本当に醸成されるかどうかの分かれ目だと思っています。
そのときは、次のように対応しましょう。
- まず、その意見をしっかりと聞く
- 何が、なぜ無理なのか、具体的な理由を確認する
- 「どうすればできるか?」を一緒に考える
注意が必要なのは、この問いかけが「できる方法を出さなければいけない」という圧にならないようにすることです。
管理職と部下という立場の差があるので、上司が問いかけると、それだけで重く響くことがあります。
「無理」の理由の中には、人員や時間、制度のように、本当に制約として正しいものも含まれています。
その場合は、できない部分を認めたうえで、「ではどこまでならできるか」を探ればよいと思います。
このやり取りの繰り返しは、それ自体が「注意=有難い」の縮図になっています。
意見を否定されずに聞いてもらえた経験があるから、マネージャーも部下の反論を受け止められるようになります。
そして、「無理です」と言っても拒絶されず、一緒に考えてもらえた経験の積み重ねが、「この人には本音を言っても大丈夫」という信頼関係につながります。
「誰が言うか」の土台は、こうした小さなやり取りの積み重ねでつくられるのだと思います。
新人マネージャーのあなたへ
注意が苦しいのは、あなたの能力不足ではなく、「注意=悪いもの」という環境や思い込みのせいかもしれません。
そのうえで、あなた自身にもできることがあります。
- 日ごろから、部下の良いところを具体的に伝えて、信頼を積んでおく
- 注意する前に、「これは相手の成長や、周りの人、患者さんを守るために言う」と、目的を自分の中で言葉にしておく
- 人格ではなく、行動に焦点を当てて伝える
- あなた自身も、指摘を有難く受け取る姿を見せる
最後の点は、意外と大きいです。
マネージャー自身が注意を受け止める姿は、部下にとって、何よりの手本になります。
マネージャーを育てる立場のあなたへ
マネージャーが注意できないのは、本人の問題だけではないかもしれません。
注意が「有難いもの」として受け取られる土壌がないまま、個人の努力に任せてしまっていないでしょうか。
- 1on1で、困りごとへの促しと、考え方の土台づくりを並行する
- 「無理です」を否定せず、理由を聞いて、一緒に考える
- マネージャーになる前の段階から、注意し合える経験をつくる
- 自分自身が、部下からの指摘を有難く受け取る姿を見せる
育てる側が率先して「注意=有難い」を体現することが、一番の近道だと思います。
まとめ
ここで、「注意するハードル」について、まとめておきます。
- 注意する負担は、言葉の難しさより、「相手との関係が壊れるかもしれない」という心理的な部分が大きい
- 目指すのは、「注意=有難いこと」という職場環境
- 注意の成否は、「何を言うか?」より「誰が言うか?」のため、日ごろの関わり方が重要
- 「注意は有難いもの」という価値観を職場に浸透させてから、マネージャーを任せるべき
- 一丁目一番地は、マネージャーの育成(部下にとっての組織の価値観は、マネージャー次第)
注意が、「有難いもの」として受け取られる職場では、マネージャーは、言うべきことを必要なときに言えるようになります。
それを部下は、指摘を成長の材料として受け取れるようになります。
そうなれば、マネジメントは今よりずっと楽になるはずです。
価値観の浸透には時間がかかりますが、始めるのに遅いということはありません。
新人マネージャーのあなたも、育てる立場のあなたも、明日の声かけや1on1から、小さな土壌づくりを始めてみませんか。
僕自身も、実践しながら試行錯誤を続けていきます。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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