日本の人口は、2020年10月現在で、約1億2,600万人です。
国は、約40年後(2065年)の日本の人口を8,808万人と推計しており、これから、3,700万人以上が減少することになります。
また、人口構成(年齢構成)も大きく変わります。
こんな感じです。
出典:内閣府「高齢化の現状と将来像」
僕は、医療・介護業界で仕事をしています。
なので、人口構造の変化は、大きな影響を受けます。
そこで、「日本の人口推移からみる医療・介護サービスへの影響と未来」について、考えたことを備忘録的にまとめておきます。
なお、この記事で紹介している各種データは、
- 総務省統計局「人口推計」
- 厚生労働省「認知症施策の総合的な推進について・年代別・世代別の課題」
- 内閣府「令和4年版高齢社会白書」
の情報をもとに作成したものです。
また、引用させていただきました表などについては、記事の中で明記しています。
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人口減少の原因については、こちらの記事でまとめています。
日本の人口構造の変化(2020年・2040年・2065年比較)
日本の人口は、2020年から2065年の45年間で、次のような変化があります。
- 人口が、3,700万人以上減少する
- 70歳以上の人口は、約3,000万人で変わらない
- 20~69歳の人口が、約3,000万人減る
- 0~19歳の人口が、約700万人減る
- 認知症患者が、約200万人増える
わかりやすく、グラフにしておきます。
つまり、「医療・介護の需要は増大するのに、労働者が激減する社会」ってことです。
ちなみに、「65歳以上の認知症有病率」と「年齢層別の受療率」は次のようになっています。
【65歳以上の認知症有病率】
年齢 | 認知症有病率 |
65~69歳 | 2.8% |
70~74歳 | 3.9% |
75~79歳 | 13.6% |
80~84歳 | 21.8% |
85~89歳 | 41.4% |
90~94歳 | 61.0% |
95歳以上 | 79.5% |
【年齢層別の受療率】
年齢 | 外来 | 入院 |
20~24歳 | 2% | 0.2% |
30~34歳 | 3% | 0.3% |
40~44歳 | 3% | 0.4% |
50~54歳 | 4% | 0.6% |
60~64歳 | 6% | 1% |
75歳以上 | 12% | 5% |
全体 | 6% | 1% |
このデータからも、医療・介護サービスの需要は増え続けるということが容易に想像できますよね。
年齢層が大幅に上がるわけですから。
労働者(20~69歳)が激減する影響
「労働者が、3,000万人減少」と聞いて、次のことが思い浮かびました。
- 所得税、消費税、社会保険料など、国の税収減少
- 年金保険料の減少(年金財源の不足)
- 人件費の高騰
- 採用コストの上昇(超売り手市場)
- 消費活動の減少により、様々な企業の売上減(法人税の減少)
- 人材確保が厳しい
- サービスの劣悪化
あんまりいいイメージはないですね・・・
医療・介護業界は、採用困難職種のオンパレードですので、労働者の減少は大問題です。
特に、看護師(准看護師)や介護職については、すでに「年中募集」状態です。
しかも、国の試算では、今後さらに看護師(准看護師)や介護職の需要が増え、不足数が増えるとされています。
【看護職員の必要数】
看護職員とは、保健師・助産師・看護師・准看護師を指し、その就業者数は平成28年末で約166万人となっています。
税・社会保障一体改革における推計において、団塊の世代が後期高齢者となる平成37年には、看護職員は196万人~206万人必要であるとされています。
就業者数は、年間平均3万人程度、増加していますが、このペースで今後増加しても平成37年には3万人~13万人が不足すると考えられます。
今後、必要となる看護職員を着実に確保するために、「養成促進」「復職支援」「離職防止・定着促進」に取り組んでいます。
出典:厚生労働省「看護職員確保対策」
【介護職員の必要数】
出典:厚生労働省「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」
2040年度には、約280万人の介護職員が必要となり、2019年時点の約211万人と比較すると、約69万人の介護職員が不足となります。
今でも厳しいのに、さらに厳しくなるわけです。
他業種も含め、人材の取り合いになりそうです。
診療報酬・介護報酬は増えるのか?
人材が必須の業態において、サービスなどの需要が増え、労働者が減少するってことは、希少性が上がるので、人件費が高騰します。
事業者側からすれば、人材が確保できなければ、サービス提供自体ができなくなりますので、人件費を上げてでも人材を確保しようとします。
こういった原理(心理)により、労働市場全体の給料が上がります。
もちろん、人件費の高騰分は、サービスや商品の価格に転嫁されます。
需要が多いので、多少の価格転嫁は、消費者に許容されます。(価格弾力性が小さいってことです)
ただし、医療・介護業界においては、そうもいきません。
医療・介護業界におけるサービスなどの価格は、原則、診療報酬・介護報酬という形で、国が決定します。
つまり、医療機関などに、価格決定権はありません。(選定療養費や療養の給付と直接関係ないサービス等は除きます)
となると、診療報酬・介護報酬を上げてもらわない限り、簡単に給料は増やせないのです。
じゃあ、医療・介護サービスの需要増加により「診療報酬・介護報酬は増えるのか?」なんですが、僕としては、厳しいと思っています。
というのも、診療報酬・介護報酬は、社会保険料などを含めた広義の税金で賄われており、20~69歳の人口が、約3,000万人減った場合、
- 所得税、消費税、社会保険料などの税収減少
- 消費活動の減少による法人税の減少
となり、国の収入は激減します。
そんななか、「診療報酬・介護報酬が大幅に上がる」とは思えないからです。
医療・介護人材の確保はどうするのか?
「労働者(20~69歳)が激減し、人材は取り合いになるのに、給料は上げられない」
これ、どう考えても、無理ゲー状態です。
ただ、「あきらめたらそこで試合終了」です。
じゃあ、どうするか?(とことん、あがいてみます)
給料以外の処遇と職場環境を整える
医療・介護業界については、厳しい条件は同じなので、その中で、最高の職場環境を目指す。
たとえば、
- 年間休日の増加
- 有給休暇取得率100%
- 残業なし
- 勤務希望の反映
- 福利厚生の充実
- 高齢者の受入れ(いつまでも働ける環境)
- 子育て世代が働きやすい環境の整備
- マネージャーの育成(教育)
- 給料以外の労働価値を意識する(職員さん個々の)
- 資格の取得支援制度
などなど、給料以外の条件を整えて、離職率を下げる。
特定技能制度の活用(外国人の力を借りる)
日本人の労働者がいなくなるなら、日本人以外の力を借りるしかありません。
介護職については、特定技能制度が使えるので、積極的に活用しましょう。
特定技能「介護」では、
- 介護技能評価試験
- 国際交流基金日本語基礎テストまたは日本語能力試験(N4以上)
- 介護日本語評価試験
の合格者が、活躍してくれます。
うちは、すでに受入れを行い、勤務してもらっていますが、かなり助かっています。(現場からの評判も、かなりいいです)
日本語でのコミュニケーションも、苦労することは少ないです。
なので、毎年、少しずつ増やしていく予定です。
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特定技能制度については、こちらの記事で詳しく説明しています。
人材が不要となる産業からの受入れを考える
日本の人口が、3,700万人以上減少するってことは、国内の消費活動が減少するってことです。
なので、
- 食料品
- 衣類
- 住宅
- 外食
- エンターテインメント
- 美容室
など、ほぼすべての産業(業態)の需要が減るってことです。
需要がないのに、供給だけしても意味がないので、結果、市場規模が縮小します。
ただ、そんな状況においても、医療・介護サービスの需要は減りません。
逆に、需要が増えていきます。
また、ChatGPT(チャットGPT)などの人口知能(AI)の進化により、人の仕事がなくなるなんて言われてます。
こういった産業構造や労働市場の変化により、転職市場の流動性が高まります。
このときに、「いかに、医療・介護業界に入ってもらうか」が、カギだと思います。
そのためにも、「給料以外の処遇と職場環境を整えておく」っていうのは、大きな要素になります。
人材紹介サービスに依存しない採用方法の構築(採用コストを減らす)
医療・介護業界は、人材紹介サービス(民間職業紹介事業者)の利用が比較的多く、採用経路別の採用割合は、次のようになっています。
【医療分野の事業所】
出典:厚生労働省「医療・介護分野における職業紹介事業に関するアンケート調査」
【介護分野の事業所】
出典:厚生労働省「医療・介護分野における職業紹介事業に関するアンケート調査」
どの職種においても、人材紹介サービスからの採用が高くなっています。
で、人材の確保が厳しくなってくると、この割合は、さらに上がっていきます。
人材紹介サービスからの採用は、紹介手数料(採用コスト)が非常に高く、経営を圧迫します。
となると、当然、給料も増やしづらくなります。
そうならないように、今のうちから、採用方法の多様化をはかり、人材紹介サービスに依存しない体制をつくっておくことが大切だと思います。
たとえば、
- 自社の求人サイトへの誘導
- SNS求人
- リファラル(職員からの紹介)
などは、比較的、費用がかからないので、採用方法の主軸にできればと感じています。
ちなみに、採用しても採用しても退職されては、意味がないので、「職員が辞めない職場づくり」は最優先だと思います。
離職率が下がり、定着率が上がれば、採用コストはおのずと下がりますので。
病院や介護施設に入れる人は限られる?
労働者(20~69歳)が、3,000万人減少するってことは、それだけ、年金保険料を納める人が減るってことなので、年金財源が不足します。
まさか、「年金が全く支給されなくなる」ってことはないと思いますが、
- 年金支給額が減る
- 年金の支給開始年齢の引き上げ
の可能性は高いと思います。
そうなると気になるのは、
「年金の支給開始年齢は何歳まで引き上げられるの?」
だと思うんですが、僕としては、75歳だと推測しています。
というのも、2021年現在の平均余命は、次のようになっています。
【平均余命(2021年)】
年齢 | 男性 | 女性 |
65歳 | 19.9年 | 24.7年 |
70歳 | 16.0年 | 20.3年 |
すでに65歳や70歳まで生きている人の平均寿命は、「男性:85歳・女性:90歳」となります。
そして、2019年現在の平均寿命と健康寿命を差し引いた「不健康な期間」は、次のようになっています。
【平均寿命・健康寿命(2019年)】
性別 | 平均寿命 | 健康寿命 | 差異 (不健康な期間) |
男性 | 81.4年 | 72.7年 | 8.7年 |
女性 | 87.5年 | 75.4年 | 12.1年 |
「平均余命から算出した平均寿命」と「不健康な期間」を差し引くと、
- 男性 85歳 - 8.7年 = 76.3歳
- 女性 90歳 - 12.1年 = 77.9歳
となり、「75歳までは健康でいられる=働ける」となるからです。
また、50歳時の未婚割合(生涯未婚率)は上がり続け、合計特殊出生率が下がっています。
こんな感じです。
【50歳時の未婚割合の年間推移(1970~2020年)】
出典:内閣府「令和4年版 少子化社会対策白書」
【合計特殊出生率の年間推移(1947~2020年)】
出典:内閣府「令和4年版 少子化社会対策白書」
となると、
- 年金が少ない
- 家族もいない
みたいな人が増え、病院に入院できる人や介護施設に入所(入居)できる人は、限られてくると思います。
2015年現在、8割以上の人が、自宅以外(病院や施設など)で亡くなっています。
出典:厚生労働省「死亡の場所と死亡数の将来推計」
今後は、このあたりのデータも変わっていくかもしれません。
お金がないと、病院も施設も入れませんので。
逆に言うと、病院や介護施設などが患者を選ぶ時代に来るのかもしれません。
もちろんそれは、診療拒否ということではなく、優先度が設定されるという意味で。
ちなみに、家族がいない人や収入が少なく生活が苦しい人は、成年後見人制度や生活保護制度の活用が可能です。
ただ、医療・介護サービスの需要が増えている中、喜んで生活保護の方を受入れる病院や介護施設は少ないのが現状です。
まとめ
ここで、「日本の人口推移からみる医療・介護サービスへの未来(予想)」について、まとめておきます
- 医療、介護サービスの需要は、この先、40年以上減ることはない
- 人材の確保がさらに厳しくなる
- 診療報酬、介護報酬の増加が見込めない状況で人件費は高騰する
- 人材の安定確保ができる組織が圧倒的に強い
- 病院や介護施設に入れる人は限られる
あたりまえかもしれませんが、今後はますます、
「人材を確保できる事業所にさらに人が集まり、人材を確保できない事業所は、さらに人が
足りなくなる」
ってことが起きると思います。
行列のできるラーメン屋と同じ現象です。(人が並んでいるお店に並びたくなる心理ってありますよね)
ただ、需要は安定しているので、職員さんを安定的に確保できるなら、経営は安定するはずです。
なので、「ここで働きたい」と思ってもらえる職場を、しっかりつくっていくことが大切ですね。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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