入院中の患者が、入院している保険医療機関以外での診療が必要になった場合、他の保険医療機関に転医または対診を求めることができるとされています。
このとき、比較的多いのは、
- 転医(転院)
- 他科受診(他の保険医療機関への外来受診)
だと思います。
でも、患者の疾病や状態などによっては、他の医療機関の医師に依頼し、診療に立ち会ってもらったりすることがあると思います。
つまり、「入院している患者への往診」ってことです。
当院でも、他の病院から依頼を受け、入院中の患者さんへ往診を行うケースがあります。
そのとき、大概、診療報酬の取り扱い(保険請求)について「あーでもない、こーでもない」と、ごちゃごちゃします。
そこで、この記事では、
- 入院中の患者に往診料って算定できるの?
- そして、保険請求はどうしたらいいの?
について、備忘録的にまとめておきます。
こんな人に読んでいただけると嬉しいです。
- 医療事務の仕事をしている
- 医療機関で、施設基準等の管理を担当している
対診とは?
まずは、対診について、定義しておきます。
対診とは、「他の保険医療機関の医師による立会診療」のことです。
なので、外来、在宅、入院のすべてにおいて、対診という考え方があり得ます。
この記事では、わかりやすくするため、入院中の患者への対診に絞って、取扱いの説明をしていきます。
なので、この記事においては「入院中の患者への往診=対診」ってことにします。
対診における診療報酬
対診を行った保険医(保険医療機関)が算定できるのは、次の3つになります。
- A000 初診料 288点
- A001 再診料 73点
- C000 往診料 720点(定期的・計画的に行われる対診は算定不可)
その他の治療にかかる特掲診療料は、往診を依頼した保険医(保険医療機関)にて保険請求します。
そのときの診療報酬の分配は、相互の合議に委ねられます。
たとえば、A病院から対診をB病院に依頼した場合、B病院では、どんな治療を行ったとしても、「初診料・再診料・往診料」の算定しかできません。
医学管理料や処置、投薬などのその他の診療行為については、A病院で算定します。
A病院にて算定した「その他の診療行為にかかる部分」や「包括部分」については、A病院がB病院と相談し、合議の上、A病院からB病院に支払いを行います。
ちなみに、対診の取り扱いについて、一覧表にすると、こんな感じになります。
【出来高病棟の入院患者への対診】
診療報酬 | 対診を依頼した側(入院側) | 対診を行った側(往診側) |
初診料・再診料・往診料 | × | 〇 |
その他の診療行為 | 〇(合議精算) | ×(合議精算) |
【特定入院料等の包括病棟の入院患者への対診】
診療報酬 | 対診を依頼した側(入院側) | 対診を行った側(往診側) | |
包括部分 | 包括部分以外 | ||
初診料・再診料・往診料 | × | × | 〇 |
その他の診療行為 | ×(合議精算) | 〇(合議精算) | ×(合議精算) |
対診を依頼した病院(入院側)の入院料の算定
他科受診の場合、他科受診した日の入院料の基本点数が控除(減算)されます。
でも、対診の場合、入院料の基本点数からの控除(減算)はありません。
なので、入院料をそのまま算定できます。
入院中の患者への往診は可能なのか?
「C000 往診料」の通知には、
と、「患家に赴き診療を行った場合に算定できるもの」とされています。
これを読むと、「保険医療機関は患家でないので入院している患者さんに対し、往診料は算定できないのでは!?」思いますよね。
ただ、厚生労働省から次のような事務連絡等が出ていますので、「入院中の患者に往診は可能なのか?」という議論については不要です。
つまり、明確に、算定可能ということになります。
新型コロナウイルス感染症における中和抗体薬の医療機関への配分について(疑義応答集の追加等)
事務連絡 令和3年7月20 日(令和4年4月18日最終改正)
厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部
Q.21 対診による本剤の使用(医療機関に入院中の患者に対し、別の医療機関からその入院先に出向いた医師が、当該別の医療機関が所有する薬剤を用いて診療を行うこと)は可能でしょうか。
【A】各医療機関に配分された薬剤については、他の医療機関への譲渡は出来ませんが、対診での投与は可能です。
なお、対診を求められて診察を行った保険医の属する保険医療機関からは、当該基本診療料、往診料等は請求できますが、特掲診療料については主治医の属する保険医療機関で請求し、対診を求められて診察を行った保険医の属する保険医療機関からは重複して請求できません。
そのため、共同で診療を行った場合の診療報酬の分配は相互の合議に委ねられます。
さらに言うと、平成22年1月20日の中医協の資料で次のように示されています。
出典:厚生労働省「入院中の患者に係る対診・他医療機関受診の取り扱いについて」
対診にかかる法的根拠
参考までに。
疑義解釈資料の送付について(その1)厚生労働省 平成22年3月29日
【対診・他医療機関の受診】
(問155) 麻酔科で開業した医師が別の医療機関に赴き、手術前日、当日、翌日の 3回往診料を算定するのは妥当であるか。
(答) 定期的、計画的な訪問を行っての麻酔では、往診料は算定できない。
(問156) 従来からの、対診の場合の診療報酬請求の取扱いに関する以下の規定について、変更はないと考えてよいか。
(1) 診療上必要があると認める場合は、他の保険医療機関の保険医の立会診療を求めることができる。
(2) 対診を求められて診療を行った保険医の属する保険医療機関からは、当該基本診療料、往診料等は請求できるが、他の治療行為にかか る特掲診療料は主治医の属する保険医療機関において請求するものとし、治療を共同で行った場合の診療報酬の分配は相互の合議に委ねるものとする。
(答) 取扱いに変更はない。ただし、定期的又は計画的に行われる対診の場合は往診料を算定できないことを明確化したものである。
国保連合会の回答
念押しです。
国保連合会に、入院患者への往診について、次のように確認しました。
【質問】
他の保険医療機関(病院)から、その病院に入院している患者への往診を依頼されたのだが、その際の診療報酬上の取り扱いはどうなるのか?
往診料などの算定は可能なのか?
【回答】
対診という扱いになりますので、初診料、再診料、往診料の算定が可能です。
それ以外の報酬部分は、往診を依頼した保険医療機関との合議精算になります。
まとめ
ここで、「入院している患者へ往診したときの算定と請求方法」について、おさらいです。
- 対診を行った医療機関は、初診料、再診料、往診料のみ算定可能
- 治療にかかる特掲診療料は、往診を依頼した保険医(保険医療機関)にて算定
- 往診を依頼した保険医(保険医療機関)にて算定した特掲診療料は、合議精算
- 対診の場合、入院料の控除(減算)はない
入院中の患者の他の医療機関への受診という意味では、
- 転医
- 対診
- 他科受診
は全くの別物として、区別して考えた方がいいとわかりやすいと思います。
診療報酬の取り扱いも全く違いますし。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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