
僕は、ちまたにあふれる「離職対策」に違和感を感じています。
というより、「それって、逆効果なんじゃないか?」とさえ思っています。(つまり、逆に職員さんが退職してしまうってことです)
もちろん、すべての組織やすべての人(職員)において逆効果とは思いませんが、医療・介護業界においては、かなり多くの割合で、逆効果になってるんじゃないかと感じています。
具体的に、違和感を感じている「離職対策」としては、
- やりがい
- 成長
- モチベーションアップ
- 公平な人事考課制度
- 職員エンゲージメント
の5つが主なものです。(この5つは、特に、マイナスが大きいと思っています)
そこで、この記事では、僕が感じている、上記5つの「離職対策の違和感」について、まとめておきます。
「離職対策をがんばっているのに職員が辞めてしまう」という人は、ぜひ、読んでみてください。
もしかしたら、その離職対策が、職員が辞めてしまう原因かもしれませんよ。
やりがいの強要は、労働環境の悪さを隠しているだけ
「この仕事は、やりがいがある」
「患者さんの笑顔のために、がんばろう」
「仕事で感謝されるのは、嬉しいよね」
「社会的に意義のある仕事だ」
仕事をしていると、こんな言葉を耳にすることがあると思います。
これらの言葉を、職員さん本人が、自ら発しているだけなら全く問題ありません。
きっと、その人にとっては、すごくいい職場なんだと思います。
でも、それを、他者に強要している場合は問題です。
さらに、強要しているのが、マネージャー(経営者や管理職など)の場合、もっと問題です。
というのも、「やりがい」は、誰かに強要されるものではなく、自ら感じるものだからです。
マネージャーによる「やりがいの強要」は、労働条件や労働環境の悪さを、「やりがい」という聞こえの良い言葉で隠しているだけです。
いわゆる、「やりがい搾取」ってやつです。
仕事における「やりがい」って、安心して働き続けられるという労働環境があってこそ、感じるものです。
たとえば、
- 雇用の安心感(いつ失職するかわからない環境で、やりがいなんて感じません)
- 休みの多さ(プライベートとのバランス)
- 有給休暇の取りやすさ
- 残業の少なさ(適正な労働時間)
- 納得できる給料
- 何歳まで働けるのか?(嘱託職員の場合)
などです。
これらの労働環境の整備(改善)を後回しにして、「やりがい」ばかりを強調する職場に、人が定着するわけがありません。
「やりがい搾取」、「やりがいの強要」はやめましょう。
僕たちは、「やりがい」だけでは生きていけません。
成長の強要は、組織側の都合でしかない
労働市場においては、
「成長できる職場に、人が集まっている」
「キャリアアップできる職場は、離職率が低い」
と言われたりしています。
そして、これらの言葉の表面的な部分だけを切り取り、
- 「職員が定着しないのは、キャリアラダーやキャリアパス制度がないからだ」
- 「離職対策として、職員が成長を具体的に感じられるような制度をつくらないといけない」
- 「職員の成長度を数値化・評価して、どんどん成長してもらおう」
みたいな組織が増えていると感じています。(国が旗を振っている影響もあると思いますが・・・)
つまり、「職員に成長を強要する組織」です。
こういう組織って、すっごく大事な視点が欠けています。
1つ目は、
「すべての人が、仕事において、成長欲求があるわけではない」
ということ。
職員によっては、「毎日決まったことを着実にやりたい」という人もいれば、「仕事よりもプライベートの時間を優先したい」という人もいます。
人生における優先順位は、人それぞれです。
仕事に対して、温度を持っている人ばかりではありません。(というか、そういう人の方が少数派だと思います)
もう1つは、
「キャリアラダーやキャリアパス制度などの導入を職員のためとしているが、完全に善意の押し付けでしかない」
ということです。
職員からすれば、「成長、成長!って言っているけど、それって完全に組織側の都合だよね」と思っています。
そして、日々の業務だけでも十分忙しいのに、さらに負担が増えて、迷惑でしかない。
そもそも、「成長」とは、強要するものではなく、支援するものだと思います。
職員の気持ちを無視した、成長の強要は、マイナスでしかありません。
「職員が、本当に、成長したいと思っているのか?」
「職員個々の労働価値は何なのか?」
そして、「職員が希望する労働価値を、うちの職場は提供できるのか?」
このあたりをしっかりと把握したうえで、制度設計しないと、職員を苦しめるだけです。
モチベーションを上げる前に、モチベーションを下げないでほしい
「どうすれば、職員のモチベーションを上げられるか?」といった議論が、色々な組織で行われていると思いますが、僕としては、この質問(議論・課題設定)自体に問題があると感じています。
というのも、価値観が多様化した現代において、「こうすれば、必ずモチベーションをアップできる」という、誰にでも効果のある「モチベーションアップの魔法」なんて存在しないからです。
つまり、職員全体のモチベーションを上げるのは難易度が高いってことです。
そういう意味では、むしろ大切なのは、モチベーションを上げることではなく、モチベーションを下げないことだと思います。
万人に共通するモチベーションを確実に上げる方法はないが、モチベーションを下げてしまう、マネージャーの行動や言動は存在します。
たとえば、
- 人前で叱責する
- 人前で褒める
などです。
勘違いしている人がいるかもしれませんが、人前での叱責や褒めるという行為にプラス要素はほぼありません。
理由としては、
- 見せしめ効果やライバル心の刺激効果はほぼない
- 褒められてない人のモチベーションが下がる
- 人前での指導(叱る)はダメージが大きい
からです。
なので、部下を褒めたり、叱ったりするときは、「1対1」が原則です。
また、モチベーションを上げることではなく、モチベーションを下げないようにしたほうがいい理由は、他にもあります。
それは、「モチベーションには、副作用(弊害)がある」ってことです。
どういうことかというと、モチベーションを上げもらうことに慣れてしまうと、モチベーションを上げてもらえないときは、今まで以上に、ガクッとパフォーマンスが落ちるということです。
そのため、職員のやる気(モチベーション)に関係なく、仕事の質を担保できる仕組みをつくるべきです。
そもそも職員のやる気によって、サービスやパフォーマンスにバラツキが出るような仕組みに問題がありますし。
そんな組織、危うすぎますよね。
仕事における、モチベーションは、無条件で誰かに上げてもらうものでもなければ、自然発生するものでもなく、「良い結果」を出せたときに、「よし、次も頑張ろう!」と湧いてくるものだと思っています。
そのため、マネージャーとしては、
- 部下が良い結果を出してもらえるように、職場環境を整備する
- 良い結果が出るように、部下をフォロー(支援)をする
というのがいいと思います。
ちなみに、職員のモチベーションアップのために、「社内表彰制度」を導入し、頑張った職員を、みんなの前で表彰しているという介護施設の事例を聞いたことがありますが、僕としては、これもやめた方がいいと思っています。
理由としては、社内表彰制度は、表彰されていない人に劣等感を感じさせてしまうからです。
特に、今の若い世代は、差をつけられることや公に比較されることを嫌います。
競争心を煽るようなやり方は、今の時代、デメリットの方が大きいと思います。
「公平な人事考課」という幻想と害悪
「公平に評価してほしい」という、職員の想いから、公平な人事考課を目指し、複雑な制度(複雑な評価シートなど)を導入している組織は多いかと思います。
もちろん、「公平な人事考課」は大切なことですが、公平な人事考課を追及するがあまり、評価シートの記入や面談などの業務負担が増え、本来の業務を圧迫してしまっては意味がありません。
本末転倒です。
本来、評価(人事考課)とは、あくまでも手段であり、目的ではないはずです。
ちなみに、職員は「公平に評価してほしい」と言いますが、その本心は、「ちゃんと自分の意見を聞いてほしい」とか、「自分の頑張りを認めてほしい」というところかと思います。
決して、「複雑な人事考課制度を導入して、業務負担を増やしてほしい」ということではないはずです。
また、そもそも論として、多くの人は、
- 他者に査定されたい
- 他者と比較されたい
なんて思っていません。
つまり、人事考課自体が、ストレスなのです。
そもそも、ストレスでしかないのに、さらに負担を強いる制度なんて離職対策になるはずありません。
なので、僕としては、人事考課制度は極力、シンプルで時間がかからないものがいいと思います。
複雑な人事考課制度を導入したことにより、病院サービスの質が上がったという話を聞いたことがありませんし、そもそも、人が評価するものに、私情が全く入らないなんてことはあり得ませんから。
余談ですが、僕の友人が働いている病院で、ガチガチの人事考課制度を導入したとき、かなりの職員が退職したそうです。
それは、「業務負担の増加」「評価に対する不信感」などの不満がすごかったとのことです。
職員のためにならない人事考課制度を導入するぐらいなら、まだ、何もしないほうがマシだと思います。
職員エンゲージメントの向上という「カルト的」印象
職員エンゲージメントとは、職員が組織(会社など)に愛着や誇りを持ち、「自ら組織に貢献したい」と自発的に思う心理状態・意欲のことです。
職員エンゲージメントが高いと、労働生産性が上がるなどの好影響があるとされています。
そんな中、やたらと、職員に対して、「職員エンゲージメントの向上」に関する発言をする組織の権威者(経営層や管理職など)がいますが、これって、すっごくマイナスだと思います。
というのも、組織の権威者が、当組織(自分の組織)に対し、熱く語りすぎると、現場は、カルト的な異常性を感じ、引いてしまうからです。
職員エンゲージメント(組織への忠誠)を強制するなんて、もってのほかです。
最悪、職員は、怖くなって辞めちゃいます。
マネージャー陣からすれば、職員さんに、職場に対して、愛着を持ってほしいという想いはわかりますが、強要するものではありません。
一緒に働いてくれるだけで、感謝です。
じゃあ、結局、離職対策は何をすればいいのか?
僕としては、次の3つが大切だと思っています。
- 職員一人ひとりの労働価値を把握し、その人にあった労働環境(働き方)を提供する
- 休みを増やし、仕事を楽にする
- マネージャーの育成を通じた職場環境・人間関係の適正化
1つずつ、詳しく説明していきます。
職員一人ひとりの労働価値を把握し、その人にあった労働環境(働き方)を提供する
仕事に何を求めているかは、人それぞれです。
給料が最優先の人もいれば、貢献実感や承認、成長、好きな仕事ができるなど、色々です。
マネージャーは、極力、その人ごとの労働価値を把握し、その価値観にあわせた仕事をしてもらうようにしましょう。
こうした、個々のマッチングが、離職対策に効果を発揮します。
休みを増やし、仕事を楽にする
「仕事を楽にする」は、最強の福利厚生です。
年間休日を増やし、有給休暇の取得を促進し、労働時間を減らす。
業務の効率化やICTの導入などにより、残業をゼロにする。
そうやって、どんどん、仕事を楽にしていく。
なんだかんだ言って、「楽な仕事で、給料がたくさんもらえる職場」は最強です。
給料を多くできないなら、休みを増やし、仕事を楽にしましょう。
年間の労働日数が減るということは、実質、給料アップとなります。
年間休日が増えることで、副業もしやすくなるので、収入を増やしたい職員さんも喜んでくれるはずです。
マネージャーの育成を通じた職場環境・人間関係の適正化
退職理由の第1位は、常に「人間関係」です。
その中でも、「直属の上司との関係」は、多くの割合を占めます。
離職対策という意味では、マネージャーの育成は、直接的に効果が出ます。
職員が辞めないマネジメントを実践できるように、マネージャーの育成に、組織全体で取り組んでいきましょう。
まとめ
ここで、「離職対策の違和感」について、まとめておきます。
- 「やりがい搾取」「やりがいの強要」はやめる
- 組織の都合で、成長を強要しないこと
- モチベーションに左右されない仕組みをつくり、モチベーションを下げる要因を減らす
- 複雑な人事考課制度をやめて、シンプルにする
- エンゲージメントを求めず、感謝する
増やしていく施策は、現場を疲弊させるだけです。
「仕事を楽にする」という福利厚生の充実のため、減らしていく施策を講じていきましょう。
職員さんが、「この職場、なんだか楽で居心地がいいな」 と思ってもらえれば、人材確保(離職対策)で悩むことはなくなるはずです。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。

コメント