労働時間の管理について、労働基準法では、
- 労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。(第38条)
- 「事業場を異にする場合」とは事業主を異にする場合をも含む。(労働基準局長通達(昭和23年5月14日基発第769号))
となっており、
「本業・副業(兼業)に関係なく、労働時間はすべて通算して計算すること」
とされています。
なので、A社で8時間働いたあと、B社で3時間働いた場合、法定労働時間(8時間)を超えた分については、割増賃金の支払い義務が発生します。
でも、このとき、A社とB社、どっちが割増賃金(時間外手当)を払えばいいのでしょうか?
普通に考えると、
「B社が、割増賃金を払うべきでしょ!?」
って思っちゃいますが、一概にそうとも言えない取扱いになっています。
そこで、この記事では、
「副業・兼業における、時間外割増賃金(割増残業代)の支払い義務」
について紹介します。
こんな人の読んでいただけると嬉しいです。
- 「副業・兼業を制度化していこう」と考えている労務管理等の担当者さん
- 副業・兼業をしようと考えている人
時間外割増賃金の支払い義務は、原則、後から労働契約を締結した事業者にある
厚生労働省が策定した「副業・兼業の促進に関するガイドラインQ&A」では、副業・兼業における労働時間の管理について、
- 労働基準法第38条では「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と規定されており、「事業場を異にする場合」とは事業主を異にする場合をも含みます。(労働基準局長通達(昭和23年5月14日基発第769号))
- 労働時間を通算した結果、労働基準法第32条又は第40条に定める法定労働時間を超えて労働させる場合には、使用者は、自社で発生した法定外労働時間について、同法第36条に定める時間外及び休日の労働に関する協定(いわゆる36(サブロク)協定)を締結し、また、同法第37 条に定める割増賃金を支払わなければなりません。
- このとき、労働基準法上の義務を負うのは、当該労働者を使用することにより、法定労働時間を超えて当該労働者を労働させるに至った(すなわち、それぞれの法定外労働時間を発生させた)使用者です。
- 従って、一般的には、通算により法定労働時間を超えることとなる所定労働時間を定めた労働契約を時間的に後から締結した使用者が、契約の締結に当たって、当該労働者が他の事業場で労働していることを確認した上で契約を締結すべきことから、同法上の義務を負うこととなります。
- 通算した所定労働時間が既に法定労働時間に達していることを知りながら労働時間を延長するときは、先に契約を結んでいた使用者も含め、延長させた各使用者が同法上の義務を負うこととなります。
とされています。
ちょっと、長くて読みづらいので、ポイントだけ抜き出しておきます。
- 副業・兼業先の労働時間は、通算して計算し、必要に応じて割増賃金を払う
- 割増賃金の支払い義務は、一般的に、労働契約を時間的に後から締結した事業者が負う
- 通算した労働時間が、法定労働時間に達していることを知りながら労働時間を延長した場合は、先に労働契約を締結した事業者が割増賃金の支払い義務を負う
副業・兼業における、時間外割増賃金(割増残業代)の発生パターン
厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドラインQ&A」を参考に、具体例をあげて紹介します。
【前提条件】
- A社、B社ともに、双方の労働時間数を把握
- A社が、先に労働契約を締結しており、その後、B社が労働契約を締結したものとします
A社で、8時間働いた日に、その後、B社で5時間働いた場合
法定労働時間(1日8時間)を超えた「5時間」については、B社に割増賃金の支払い義務が発生します。
B社で、3時間働いた日に、その後、A社で8時間働いた場合
法定労働時間(1日8時間)を超えた「3時間」については、B社に割増賃金の支払い義務が発生します。
A社で「1日8時間、月曜日から金曜日(週5日間)」で契約・労働し、B社で「土曜日に5時間」働いた場合
法定労働時間(週40時間)を超えた「5時間」については、B社に割増賃金の支払い義務が発生します。
A社とB社で、1日4時間ずつの契約をしており、A社で5時間働いた日に、B社で4時間働いた場合
法定労働時間(1日8時間)を超えた「1時間」については、A社に割増賃金の支払い義務が発生します。
この場合は、法定労働時間を超えて労働させたのが、A社であるという解釈です。
A社とB社で、1日3時間ずつの契約をしており、A社で5時間働いた日に、B社で4時間働いた場合
通算した労働時間が、法定労働時間(1日8時間)を超えた「1時間」について、B社に割増賃金の支払い義務が発生します。
A社とB社で、1日3時間ずつの契約をしており、A社で6時間働いた日に、B社で4時間働いた場合
通算した労働時間が、法定労働時間(1日8時間)を超えた「2時間」について、A社・B社「1時間ずつ」の割増賃金の支払い義務が発生します。
まだまだ、色々なパターンが考えられると思いますが、このあたりで・・・
有給休暇は、労働時間としてカウントしない
有給休暇は、給料が支給されるうえ、医療法等の人員計算をするときにも労働時間として算入できますが、労働基準法上では「労働時間」として考えません。
なので、有給休暇を取得した日や週については、有給休暇分の時間を引いて、労働時間の計算がされます。
たとえば、
- A社で、1日有休を使った日に、B社で5時間働いた場合
⇒割増賃金の支払い義務なし - A社で、半日有休(4時間)を使った日に、B社で5時間働いた場合
⇒B社に1時間の割増賃金の支払い義務が発生 - A社で月曜日に1日有休を使い、土曜日に5時間働いた場合
⇒割増賃金の支払い義務なし
って感じです。
ただ、副業・兼業先の労働時間を完全に把握するだけでも大変なのに、
「有給休暇を取得したかどうかまで、チェックできるのか?」
と疑問に思ったりしますが・・・
まとめ
ここで、「副業・兼業における割増賃金(割増残業代)の取扱い」についてまとめておきます。
- 本業・副業(兼業)に関係なく、労働時間はすべて通算して計算する
- 割増賃金の支払い義務は、原則、後から労働契約を締結した事業者にある
- 有給休暇は、労働時間としてカウントしない
厚生労働省では、「働き方改革」の1つとして、副業・兼業を推進していますので、これから、副業・兼業で働く人はどんどん増えていくと思います。
そうなると、事業主としては、職員採用の際に、次の2つが必須となります。
- 他の会社等で働いているかどうかの確認
- 他の会社等での働き方(労働時間等)にあわせた、給与(時給)設定
これ、場合によっては、かなり採用しづらくなりますよね。
だって、同じ仕事をしてもらうのに、割増(1.25倍)の給与を払わないといけないわけですし・・・
「副業・兼業」の推進って、職員さんにとっては嬉しい話だと思いますが、事業主にとっては、手放しで喜べる状況ではなさそうです。
管理が複雑になりますし・・・
まぁ、もちろん、メリットもあるんでしょうけどね。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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