「仕事自体は、楽しいんだけど、人間関係で疲れてしまう…」
そんな風に感じていませんか?
実はその悩み、多くの人が抱える、「適応課題」が原因かもしれません。
「適応課題」とは、人間関係や組織文化といった、人々の価値観や関係性に深く関わっている複雑な問題であり、既存の方法や知識だけでは解決できません。
そこで、この記事では、職場での人間関係を根本から見つめ直し、建設的な関係性を築くためのヒントを、書籍「他者と働く わかりあえなさから始める組織論」の内容をもとに紹介します。
会社での人間関係、その悩みはどこから来るの?
会社で働く上で、人間関係の悩みは尽きません。
次のような悩みは、単なる「性格の不一致」で片付けられるものではありません。
- 上司に何を話しても、理解してもらえない
- 同僚と意見が合わず、いつもギスギスしてしまう
- 部下が自分の思い通りに動いてくれない
その背景には、私たちが無意識のうちに抱えている「ある問題」が隠されています。
書籍「他者と働く」では、職場で起こる問題を「技術的課題」と「適応課題」の2つに分類しています。
技術的課題:解決策が明確な問題
これは、既存の知識やスキル、マニュアルを使えば解決できる問題です。
たとえば、「システムがダウンした」「特定の業務プロセスが非効率だ」といった問題は、専門家の力を借りたり、新しいツールを導入したりすることで解決できます。
適応課題:解決策が明確でない、複雑な問題
一方、私たちが「人間関係の悩み」として感じていることの多くは、この適応課題にあたります。
これは、
- 関係性の中で生じる問題
- 既存の方法では一方的に解決できない、複雑で困難な問題
です。
この適応課題を解決するためには、単に「正解」を教えるのではなく、関係者全員が関わり合い、新しい関係性を築き、お互いに変化していくプロセスが必要になります。
上司が部下を「やる気がない」と決めつけたり、同僚が「私のやり方を理解してくれない」と不満を抱えたりするのは、まさにこの適応課題です。
相手の行動の背後にある「何か」を理解しようとしない限り、問題はいつまでも解決しません。
そもそも「対話」って何?
人間関係の悩みを解決する鍵は「対話」にあります。
しかし、私たちは「対話」を誤解しているかもしれません。
書籍「他者と働く」では、「対話」の本当の意味を次のように定義しています。
「お互いにわかりあえていない」と認めることから始める
対話のスタート地点は、
「あなたはあなたの前提で、私は私の前提で話している。だから、お互いにわかりあえていない」
と認めることです。
私たちは、つい「自分の考えが正しい」と思ってしまいがちです。
しかし、人はそれぞれ異なる経験や価値観を持っています。
その違いを無視して「わかってもらえない」と嘆くのではなく、「そもそも、私たちは違う前提で話しているんだ」と気づくことが大切です。
新しい関係性を構築すること
対話は、単に情報を交換することではありません。
それは、お互いの前提を理解し、「新しい関係性」を築いていくプロセスです。
自分の中に相手を見出し、相手の中に自分を見出すこと
これは少し哲学的な表現ですが、対話を通じて相手の立場や考えに深く触れることで、「もし私がこの人の立場だったら、同じように感じたかもしれない」と、相手の中に自分と共通する部分を見出すということです。
この共感こそが、対話の核心なのです。
なぜ「対話」が難しいのか?「2つの人間関係」
では、なぜ私たちは、つい「対話」を避けてしまうのでしょうか?
それは、私たちが無意識のうちに「私とそれ」という関係性で相手を見てしまうからです。
「私とそれ」の関係
これは、相手を「道具(ツール)」として見ている関係性です。
たとえば、
- あの部下は、私の指示通りに動くための道具だ
- この上司は、私を評価してくれるためのツールだ
こうした関係性では、相手の個性や感情は無視され、ただ「自分の目的を達成するための存在」としてしか認識されません。
これでは、深いコミュニケーションは生まれず、やがて関係性はギスギスしたものになってしまいます。
「私とあなた」の関係
一方、「私とあなた」の関係では、相手を「私であったかもしれない」と、一人の人間として尊重し、関わります。
この関係性では、相手の意見や行動の背景にある「ナラティブ(物語)」を理解しようとします。
「ナラティブ(物語)」とは、
- その人の価値観
- その人が置かれている環境における「一般常識」
- その人の専門性、職業倫理、組織文化
のことです。
「私とあなた」の関係を築くためには、相手の言動の背後にある「物語」をよく知ろうとすることが大切です。
適応課題を解決するための4つのステップ
では、具体的にどうすれば適応課題を解決し、良好な人間関係を築けるのでしょうか?
書籍「他者と働く」では、そのための具体的なステップとして、「準備・観察・解釈・介入」の4つを挙げています。
ステップ1: 準備(自分のナラティブを脇に置く)
まず、自分の「正しさ」や「当たり前」を一旦脇に置いてみましょう。
「相手を問題のある存在」として見るのではなく、「別の物語(ナラティブ)の中で、意味のある存在」として認めることから始めます。
ステップ2: 観察(溝の向こうを眺める)
次に、相手の「物語」を観察します。
- 相手がどんな責任を負っているのか?
- 何に関心があるのか?
- どんなプレッシャーにさらされているのか?
相手の言動を「なぜ、この人はこのような行動をするのだろう?」という視点から観察することで、驚くほど多くの発見があるはずです。
ステップ3: 解釈(溝をわたり橋を設計する)
観察した情報をもとに、相手の行動の「意味」を解釈します。
- 相手にとって、意味のあるものとは何か?
- 何が役に立ち、潜在的に何に困っているのか?
このステップでは、相手の視点に立って物事を考え、お互いにとって「共通の成果」を設定するための橋を設計します。
ステップ4: 介入(溝に橋を架ける)
最後に、設計した橋を実際に架け、行動に移します。
- 〇〇さんと、この課題について話してみよう
- 〇〇さんの負担を減らすために、私ができることは何だろう?
相手の見えていない問題に取り組み、「かゆい所に手が届く存在」になることで、相手との関係性は一気に深まります。
マネジメント層のためのヒント
この本は、マネジメント層の方にも重要な示唆を与えています。
人材育成は「主人公」にすること
マネジメントの役割は、部下を「その人の仕事の主人公」にすることです。
上司が一方的に「こうしろ」と指示するのではなく、部下が「自分の仕事の物語(ナラティブ)を自ら紡ぐ」ことを支援する。
これこそが、本当の人材育成です。
権力の作用を自覚する
役職は、部下にとっては「思った以上に権威として作用する」ことを理解しましょう。
部下は、上司に対して思ったことを率直に話してくれるとは限りません。
だからこそ、上司は「現場の声を聞き入れる」ための配管が腐っていないか、常にチェックする必要があります。
信頼は「行動」から生まれる
「信頼があるから行動できる」のではなく、「行動するから信頼される」のです。
部下との関係性で悩んでいるなら、まず自分から行動してみましょう。
小さな約束を守る、部下の意見に耳を傾ける、困っていることを手伝う。
こうした日々の積み重ねが、やがて強固な信頼関係を築き上げます。
明日からできること
職場の「相棒」を見つけよう
職場内外に、本音で話せる「相棒」を見つけておくことは非常に大切です。
「愛の本質は、与えられるものではなく、本質的に与えるもの」
自分から相手に関心を寄せ、信頼を「与える」ことから、新しい関係性は始まります。
「代わり」を「加えて」に変える
何かを否定する時、私たちはつい「〇〇の代わりに、△△を」と考えがちです。
しかし、それでは対立を生むだけです。
そうではなく、「〇〇に加えて、△△もやってみようか」という発想に切り替えてみましょう。
これは、相手の意見を尊重しつつ、新しい可能性を探るための強力なマインドセットです。
あなたが動かなければ、何も変わらない
最後に、最も大切なメッセージを。
「あなたが何もしなければ、世界は何も変わらない、何もね。」
会社での人間関係は、誰か一人が頑張ることで改善するものではありません。
しかし、あなたが「対話」を始め、一歩踏み出すことで、少しずつ、でも確実に、周りの関係性は変わり始めます。
まとめ
ここで、「職場での人間関係を根本から見つめ直し、建設的な関係性を築くための考え方・行動」について、まとめておきます。
- 相手を「道具」ではなく、「一人の人間」として見る
⇒「私とそれ」の関係から、「私とあなた」の関係へと意識を切り替える - 「対話」は「わかりあえていない」ことを認めることから始まる
⇒自分の「当たり前」を一旦脇に置き、相手の「物語」に耳を傾ける - 「行動」するから「信頼」される
⇒小さなことでも、まず自分から相手に関わり、信頼を築くための行動を起こす
人間関係の悩みは、一朝一夕には解決しません。
しかし、これらの考え方や行動を少しずつ取り入れていくことで、あなたの仕事はより意味のあるものになり、毎日はきっと楽しくなるはずです。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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