「何度説明しても理解してもらえない…」
「どうしていつも自分の言いたいことが、うまく伝わらないんだろう…」
あなたは人間関係やコミュニケーションでこんな悩みを抱えていませんか?
職場の上司や部下、同僚、家族、友人など、さまざまな人との間で「話せばわかる」はずなのに、どうしてこんなにもすれ違いが起きてしまうのでしょうか。
そこで、この記事では、書籍「「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか?認知科学者が教えるコミュニケーションの本質と解決策」の内容をもとに、なぜ、「伝わらない」という問題が起こるのかを深く掘り下げ、具体的な解決策を紹介します。
「話せばわかる」は幻想かもしれない
私たちは、「人と人は言葉を交わせば、お互いのことを理解し合える」という前提でコミュニケーションを取ることが多いでしょう。
しかし、本書はまず、この「話せばわかる」という考えが、もしかしたら幻想かもしれないと問いかけています。
なぜなら、私たちが話す言葉は、100%意図を正確に表現できるものではなく、また、相手も私たちの言葉をそのまま受け取るわけではないからです。
相手はあなたの言葉を「そのまま」受け取ってはいない
私たちは、誰かから話を聞くとき、その内容をそのまま脳にインプットしているわけではありません。
必ず、自分自身の経験、知識、価値観といった「フィルター」を通して、相手の話を解釈しています。
たとえば、上司が部下に「このプロジェクトは迅速に進めてほしい」と伝えたとします。
すると、
- 部下Aは、「迅速=とにかくスピード重視で、多少のミスがあってもいいから急げ」と解釈する
- 部下Bは、「迅速=無駄な工程を省き、効率的に、かつ正確に進めること」と捉える
かもしれません。
同じ言葉を聞いていても、このように解釈の違いが生まれるのはごく自然なことなのです。
話し手と聞き手の間で、言葉のニュアンスや背景にある意図が完全に一致することは、実は非常に稀なことなのです。
思考の枠組み「スキーマ」が理解を妨げる
この解釈の違いを生み出す要因の一つが、認知科学における「スキーマ」と呼ばれるものです。
スキーマとは、私たちがこれまでの経験や知識から形成してきた、物事や状況を理解するための思考の枠組みのこと。
私たちは、このスキーマというフィルターを通して、常に物事を見ています。
つまり、人それぞれが持つスキーマが異なるため、同じ情報に触れても、理解の仕方が変わってくるのです。
これは、あなたがこれまで生きてきた中で培ってきた「当たり前」が、他の人にとっては「当たり前」ではないということを意味します。
このスキーマの存在を理解しないままコミュニケーションを取ろうとすると、「なんでそんなこともわからないんだ?」という不満や、「こんなに説明しているのに伝わらない」という焦りにつながってしまうのです。
人の記憶は「事実」とは限らない
さらに、コミュニケーションをより複雑にするのが、記憶の曖昧さです。
私たちは、自分が話したことや、相手から聞いたことを「事実」として記憶していると考えがちです。
しかし、本書は、人の記憶は想像以上に脆弱で、簡単に書き換わってしまうことを指摘しています。
たとえば、
- 記憶の重要度の違い(話した側は重要だと思っていても、聞いた側はそうでもないという場合、記憶に残らない)
- 記憶のすり替え(自分の願望や感情、他人の発言によって、過去の記憶が意図せず書き換えられてしまう)
などです。
「確かにそう言ったはずなのに…」という経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。
これは、あなたが嘘をついているわけではなく、単に記憶が書き換わってしまっただけかもしれません。
つまり、「伝わらない」「理解してもらえない」という問題は、話し手と聞き手の双方の脳内で起こる、ごく自然な現象なのです。
この前提に立つことが、コミュニケーションの悩みを解決する第一歩となります。
なぜ「言っても伝わらない」ことが起こるのか?
「話せばわかる」が幻想だとしたら、「言っても伝わらない」とき、私たちの脳内では一体何が起きているのでしょうか。
本書では、この原因を認知バイアスや思考の偏りといった観点から詳しく解説しています。
誰にでもある「視点の偏り」
私たちは、意識的にまんべんなく公平に物事を見渡しているつもりでも、実際にはバイアス(偏見や先入観)を持っています。
エコーチェンバー現象
インターネットなどで、自分と同じ意見を持つ情報ばかりに触れ、視野が狭まってしまう現象です。自分の考えが正しいと確信し、異なる意見を持つ人を理解できなくなってしまいます。
専門性の罠
自分の専門分野に深く精通しているがゆえに、専門用語を多用したり、相手が知らない前提知識で話を進めてしまったりすることがあります。
異なるバックグラウンドを持つ人との間で、コミュニケーションギャップが生まれやすくなります。
これらのバイアスは、私たちが意識しないうちに、思考や判断を歪ませてしまいます。
記憶はあてにならない、だからこそ工夫が必要
仕事で「あの件、どうなった?」と聞かれて「え、そんな話ありましたっけ?」と言われた経験はないでしょうか。
本書は、記憶力がいい人ほど理解力があるという考えは間違いだと指摘しています。
記憶力と理解力は別物
記憶力がいい人は、単に情報の出し入れが上手なだけで、深い理解を伴っているとは限りません。
忘れることは悪いことばかりではない
脳の容量には限りがあります。
余計なことを忘れるからこそ、新しい情報をインプットできるのです。
本当に仕事ができる人は、「自分も相手も忘れる可能性がある」という前提で動きます。
- 重要なことはメールやメモで残す
- 口頭でのやり取りだけでなく、文書で共有する
- 議事録を作成し、決定事項を確認し合う
このように、人間の記憶の曖昧さをカバーするための仕組みを構築しています。
思考を停止させる「認知バイアス」
私たちがコミュニケーションでつまずく大きな原因の一つに、認知バイアスがあります。
これは、直感や経験則に基づいて、論理的ではない思考パターンに陥ってしまうことです。
本書では、いくつか具体的な認知バイアスが紹介されています。
認知バイアス | 内容・説明 |
信条バイアス | 「自分の意見が正しい」と信じ込み、反証となる情報を無視してしまう |
「他人の知識=自分の知識」バイアス | 「こんなこと、みんな知っているだろう」という思い込み |
相関を因果と思い込む思考バイアス | 「風邪の人はマスクをしていることが多い」からといって「マスクをすると風邪をひく」とは言えないように、関連性があるだけで原因と結果ではないものを、勝手に結びつけてしまう |
流暢性バイアス | プレゼンがうまい人や自信満々に話す人の言葉は「正しい」と判断してしまう |
これらのバイアスは、無意識のうちに私たちの思考を停止させ、他者の意見を受け入れられなくしてしまいます。コミュニケーションのスタート地点は、「話す」ことではなく**「聞く」こと**であり、相手の話に耳を傾けることで、自分のバイアスに気づくことができると本書は伝えています。
「伝わる」「理解できる」を実現する具体的な方法
「伝わらない」「わかりあえない」という現実を受け入れた上で、ではどうすればより良いコミュニケーションを築けるのでしょうか?
本書は、この問いに対して、感情のコントロールから具体的な話し方のコツまで、実践的な解決策を提示しています。
相手の立場に立つ「心の理論」
相手の考えや意図を想像する力、これを認知科学では「心の理論」と呼びます。
単に相手の感情を推し量るだけでなく、なぜその感情になったのか、その背後にある理由まで想像しようとすることが大切です。
たとえば、部下がミスをしたとき、「どうしてこんなミスをしたんだ!」と感情的に叱りつけるのではなく、「なぜミスをしてしまったんだろう?何か困っていることがあるのかな?」と考える。
この心の理論を実践するために有効なのが、「理由の説明」です。
人は、たとえ納得のいかない内容であっても、そこに「理由がある」というだけで、感情が楽になることがあります。
次のように、理由を添えて伝えるだけで、相手は「自分は軽んじられているわけではない」「ちゃんと考えてくれている」と感じ、信頼関係が生まれやすくなります。
- 「このプロジェクトは、〇〇という理由で迅速に進めてほしい」
- 「今回は〇〇さんに任せることにしたよ。君には、このプロジェクトで身につけたスキルを活かして、別の新しい仕事に挑戦してほしいんだ」
具体と抽象を意識した話し方
コミュニケーションにおいて、「具体と抽象」のバランスは非常に重要です。
具体的で詳細な情報ばかりを伝えても、相手は全体像がつかめず、話の本質を理解できません。
抽象的に「もっと頑張ろう」「しっかりとやってくれ」のような抽象的な言葉だけでは、相手は何をすればいいのかわからず、行動につながりません。
本書は、この「具体と抽象」の伝達ミスを防ぐために、以下のようなポイントを挙げています。
- 言葉は「抽象化された記号」だと理解する
私たちが使う言葉は、情報を圧縮するためのツールであるため、話し手と聞き手の間で、この「記号」が指す具体的なイメージが異なると、伝達ミスが起こります - 具体例を豊富に使う
「頑張ろう」だけでなく、「来週の火曜日までに、この資料をA案とB案の2パターン作成してほしい」のように、具体的な行動を提示する - 概念を定義する
「イノベーション」のような抽象的な言葉を使う際は、「私たちの部署におけるイノベーションとは、〇〇と〇〇を指します」というように、事前に共通の認識をすり合わせる
言葉は、誰もが違うフィルターを通して受け取る記号であることを前提に、具体と抽象を行き来しながら丁寧に説明する努力が不可欠です。
「伝わらない」を越えるコミュニケーションの達人になるには?
コミュニケーションの達人とは、生まれつき話がうまい人ではありません。
本書は、「伝わらない」「わかりあえない」という前提を受け入れた上で、それを乗り越えるための努力を怠らない人だと述べています。
失敗から学ぶ「成長の糧」
達人は、コミュニケーションの失敗を恐れません。
むしろ、失敗を貴重な機会と捉え、そこから学ぼうとします。
- 「なぜあの時、自分の意図が伝わらなかったのか?」
- 「どうすれば、もっとわかりやすく説明できたのか?」
このように、失敗を分析することで、自分のバイアスや伝え方の癖に気づき、次へと活かすことができるのです。
説明の手間を惜しまない
達人は、相手との間に「前提知識」や「暗黙の了解」があると思っていません。
常に、相手は自分とは異なるフィルターを持っているということを意識し、説明の手間を惜しまない努力をします。
たとえば、新しいプロジェクトを説明する際、「以前やった〇〇プロジェクトと似たような感じだから」と省略せずに、改めてプロジェクトの目的や全体像を丁寧に説明します。
これは一見、非効率に思えるかもしれませんが、結果として誤解やすれ違いを防ぎ、スムーズな進行につながります。
相手を「コントロール」しようと思わない
コミュニケーションの達人は、相手を自分の思い通りに動かそうとは考えません。
そうではなく、相手との「関係性」を築くことに注力します。
相手を尊重し、信頼関係を築くことで、相手は自ずと協力的になり、自律的に動くようになります。
たとえば、部下に対して「〇〇をしてほしい」と命令するのではなく、「〇〇を達成するためには、君のこんなスキルが必要だと思っている。一緒にやってみないか?」と、相手の成長を意識した問いかけをすることで、主体的な行動を促すことができます。
まとめ:「伝わらない」のは当たり前!だからこそ工夫が必要
人間関係やコミュニケーションの悩みは、私たちが当たり前だと思っている「話せばわかる」という前提が、実は幻想であることに起因しているのかもしれません。
しかし、「誰もが違うフィルターを持っている」という前提を受け入れ、相手に伝わるための工夫を惜しまないことで、あなたのコミュニケーションは必ず変わっていきます。
今回、紹介した認知科学の視点を取り入れて、明日から丁寧なコミュニケーションと工夫を始めてみませんか?
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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