処方料・処方箋料の「向精神薬長期処方」の算定ルール【適切な研修・精神科医の助言】

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医師、患者、診察、リハビリ

医師が、外来などで患者さんへ薬を処方した場合、処方にかかる費用として、次のような点数が算定できます。

 

【処方料(院内処方の場合)】

  1. 向精神薬多剤投与 18点
  2. 7種類以上の内服薬の投与または向精神薬長期処方 29点
  3. 1及び2以外 42点

 

【処方箋料(院外処方の場合)】

  1. 向精神薬多剤投与 28点
  2. 7種類以上の内服薬の投与または向精神薬長期処方 40点
  3. 1及び2以外 68点

 

見てのとおり、1の「向精神薬多剤投与」と、2の「7種類以上の内服薬の投与または向精神薬長期処方」に該当しない場合の点数が一番高くなっています。

これは逆に言うと、1と2に該当しちゃうと、減算されるってことです。

 

ただ、処方料・処方箋料には、ある要件を満たすと、減算されなくなる場合があります。

この要件が非常に複雑で、わかりづらい。(僕だけではないはず)

 

そこで、この記事では、2の「向精神薬長期処方」における減算しなくてもよい要件について、備忘録的にまとめておきます。

こんな人に読んでいただけると嬉しいです。

  • 医療事務の仕事をしている
  • 医療機関で、施設基準等の管理を担当している
この記事で紹介している診療報酬(点数)および算定ルールは、令和4年4月時点のものです。

 

【関連記事】

1の「向精神薬多剤投与」における減算しなくてもよい要件については、こちらの記事でまとめています。

処方料・処方箋料の「向精神薬多剤投与」の算定ルール【臨時の投薬等・経験のある医師】
医師が、外来などで患者さんへ薬を処方した場合、処方にかかる費用として、次のような点数が算定できます。【処方料(院内処方の場合)】 向精神薬多剤投与 18点 7種類以上の内服薬の投与または向精神薬長期処方 29点 1及び2以外 42点【処方箋...

向精神薬長期処方とは?

処方料や処方箋料を、2の「向精神薬長期処方」として算定するのは、不安若しくは不眠の症状を有する患者に対して1年以上継続して、別に厚生労働大臣が定める薬剤の投薬を行った場合です。

具体的には、「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(算定上の解釈通知)」にて、次のように定められています。

「不安若しくは不眠の症状を有する患者に対して1年以上継続して別に厚生労働大臣が定める薬剤の投薬を行った場合(以下「向精神薬長期処方」という。)」とは、薬効分類上の抗不安剤、催眠鎮静剤、精神神経用剤又はその他の中枢神経系用薬のいずれかに該当する医薬品のうち、ベンゾジアゼピン受容体作動薬を1年以上にわたって、同一の成分を同一の1日当たり用量で連続して処方している場合をいう。

 

ちょっとわかりづらいですが、つまりは、次の条件すべてに該当するとき、向精神薬長期処方となります。

  • 不安若しくは不眠の症状がある患者
  • その患者に対して、薬効分類上の抗不安剤、催眠鎮静剤、精神神経用剤又はその他の中枢神経系用薬のいずれかに該当する医薬品のうち、ベンゾジアゼピン受容体作動薬を、1年以上継続して処方している
  • そのベンゾジアゼピン受容体作動薬において、同一の成分を同一の1日当たり用量で連続して処方している

ベンゾジアゼピン受容体作動薬一覧

薬効分類上の抗不安剤、催眠鎮静剤、精神神経用剤またはその他の中枢神経系用薬のいずれかに該当するベンゾジアゼピン受容体作動薬とは、次のとおりです。

ベンゾジアゼピン受容体作動薬一覧(医学通信社)

出典:医学通信社「ベンゾジアゼピン受容体作動薬一覧」

「同一の成分を同一の1日当たり用量で連続して処方している」とは?

向精神薬長期処方の条件である、「1年以上継続して処方している」の判断基準は、「同一の成分を同一の1日当たり用量で、1年間連続して処方している」かどうかです。

つまり、どういうことかと言うと、患者さんの状態に応じて、

  • 薬を減量した場合
  • 定期処方から頓服への変更(逆もしかり)

などがあった場合、用量が変更になるため、処方期間はリセットされるってことです。

リセットされた場合、変更した時から再度処方期間を算出します。

 

ただ、1日の用量が変わらずに、用法のみを変更した場合は、同一用量となるので、処方期間は継続されます。

てんかん治療のために向精神薬を長期処方している場合は減算の対象とはなりません。

向精神薬長期処方でも減算されない場合(要件)

医科診療報酬点数表では、処方料・処方箋料の「2.向精神薬長期処方」について、次のように定められています。

不安若しくは不眠の症状を有する患者に対して1年以上継続して別に厚生労働大臣が定める薬剤の投薬(当該症状を有する患者に対する診療を行うにつき十分な経験を有する医師が行う場合又は精神科の医師の助言を得ている場合その他これに準ずる場合を除く。)を行った場合

 

上記のカッコ書きによると、

「当該症状を有する患者に対する診療を行うにつき十分な経験を有する医師が行う場合又は精神科の医師の助言を得ている場合その他これに準ずる場合を除く」

となっています。

 

つまり、

  • 十分な経験を有する医師による処方
  • 精神科の医師の助言を得ている場合

については、向精神薬長期処方でも減算しなくてよいってことです。

さらに言うと、「3.1及び2以外」で、算定していいよってことです。

 

じゃあ、

  • 十分な経験を有する医師
  • 精神科の医師の助言を得ている場合

って、具体的になんなの?ってことになりますよね。

 

それについては、「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(算定上の解釈通知)」に載っていますので、1つずつ説明していきます。

「当該症状を有する患者に対する診療を行うにつき十分な経験を有する医師」とは?

次のいずれかに該当する医師が行った処方は、向精神薬長期処方であっても、算定上は、向精神薬長期処方に該当せず、減算されなくなります。

  • 不安又は不眠に係る適切な研修を修了した医師であること
  • 精神科薬物療法に係る適切な研修を修了した医師であること(精神科の臨床経験を5年以上を有する状態で受講した場合のみ該当)

 

「どの研修を受ければ、向精神薬長期処方における十分な経験を有する医師に該当するか?」

については、次のような疑義解釈(事務連絡)が出ています。

【処方料、処方箋料】

問 171 不安若しくは不眠の症状を有する患者に対して1年以上継続してベンゾジアゼピン受容体作動薬の投薬を行った場合に算定する処方料・処方箋料に ついて、「不安又は不眠に係る適切な研修」及び「精神科薬物療法に係る適切 な研修」とはそれぞれ何を指すのか。

(答)「不安又は不眠に係る適切な研修」については、現時点で日本医師会の 生涯教育制度における研修(「日医 e ラーニング」を含む。)において、カリキュラムコード 69「不安」又はカリキュラムコード 20「不眠」を満たす研修で あって、プライマリケアの提供に必要な内容含むものを2単位以上取得した場 合をいう。

「精神科薬物療法に係る適切な研修」については、現時点で日本精神神経学会又は日本精神科病院協会が主催する精神科薬物療法に関する研修をいう。

ただし、精神科の臨床経験5年以上を有する状態で受講した場合のみ該当すること。

出典:厚生労働省「疑義解釈資料の送付について(その1)平成30年3月30日」

 

【処方料、処方箋料】

問2 不安若しくは不眠の症状を有する患者に対して1年以上継続してベンゾジアゼピン受容体作動薬の投薬を行った場合に算定する処方料、処方箋料 について、「疑義解釈資料の送付について(その1)」(平成 30 年3月 30 日 付け事務連絡)別添1の問 171 で「不安又は不眠に係る適切な研修」として 示したもの以外に、以下の研修を修了した医師は、「不安又は不眠に係る適 切な研修」を修了した医師と考えてよいか。

・公益社団法人全日本病院協会による「向精神薬の適正使用に係る研修」

(答)よい。

出典:厚生労働省「疑義解釈資料の送付について(その1)平成31年1月30日」

 

向精神薬多剤投与における「精神科の診療に係る経験を十分に有する医師」に該当する医師は、向精神薬長期処方でも、「当該症状を有する患者に対する診療を行うにつき十分な経験を有する医師」に該当することになります。

 

ちなみに、不安又は不眠に係る適切な研修、精神科薬物療法に係る適切な研修について届出は不要です。

また、診療報酬明細書への記載も求められていません。

「精神科の医師の助言を得ている場合」とは?

当該処方の直近1年以内に精神科の医師からの助言を得て行っている処方は、「精神科の医師の助言を得ている」となります。

「精神科医の助言」における具体的な要件としては、次のような疑義解釈(事務連絡)が出ています。

問 169 不安若しくは不眠の症状を有する患者に対して1年以上継続してベンゾジアゼピン受容体作動薬の投薬を行った場合の処方料・処方箋料における 「精神科医の助言」について、具体的に求められる要件などはあるのか。

(答)「精神科医の助言」については、精神科のみを担当する医師又は精神科と心療内科の両方を担当する医師による助言をいう。

出典:厚生労働省「疑義解釈資料の送付について(その1)平成31年1月30日」

 

ちなみに、「精神科医の助言」の取り扱いについて、ちょっと気になることがあり、厚生局に相談しました。

【質問】

精神科の病院において、向精神薬長期処方における精神科医の助言は、同一保険医療機関内の医師の助言でも良いのか?
また、その助言は口頭でも良いのか?

 

【厚生局の回答】

同一保険医療機関内の医師からの助言は、減算対象となります。また、口頭による助言では、減算対象となります。
他の保険医療機関の精神科医からの診療情報提供書をもとに処方した場合に、減算対象ではなくなります。

 

厚生局からの回答後、通知や疑義解釈(事務連絡)などをかなり調べましたが、厚生局が言うその文言は見つけられなかったです。

厚生局には、厚生労働省に確認した独自の疑義解釈通知があるみたいなのでそれに載っているのかもしれません。

回答に悩む様子もなく、答えてましたし。

 

もし、向精神薬長期処方について詳しい人、もしくは厚生局から違う回答をもらったという人がいれば、教えてください。

当院としては、この回答をもとに算定を行っていますので。

まとめ

ここで、「向精神薬長期処方時の算定ルール」について、まとめておきます。

向精神薬長期処方に該当する場合

  • 不安もしくは不眠の症状がある患者
  • その患者に対して、ベンゾジアゼピン受容体作動薬を1年以上継続して処方している
  • そのベンゾジアゼピン受容体作動薬において、同一の成分を同一の1日当たり用量で連続して処方している

向精神薬長期処方でも減算されない場合

  • 不安又は不眠に係る適切な研修を修了した医師による処方
  • 精神科薬物療法に係る適切な研修を修了した医師による処方(精神科の臨床経験が5年以上で受講)
  • 直近1年以内に精神科医の助言を得た処方

 

保険医療機関としては、極力、減算せずに算定したいところです。

そのためにも、制度の理解を深め、適切に判断していきたいですね。

わかりづらい通知が多いですけどね・・・

 

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

 

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こう

医療・介護業界で経営管理の仕事をしながら、ブログ「まいぼた」を書いています。

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