医師が、外来などで患者さんへ薬を処方した場合、処方にかかる費用として、次のような点数が算定できます。
【処方料(院内処方の場合)】
- 向精神薬多剤投与 18点
- 7種類以上の内服薬の投与または向精神薬長期処方 29点
- 1及び2以外 42点
【処方箋料(院外処方の場合)】
- 向精神薬多剤投与 28点
- 7種類以上の内服薬の投与または向精神薬長期処方 40点
- 1及び2以外 68点
見てのとおり、1の「向精神薬多剤投与」と、2の「7種類以上の内服薬の投与または向精神薬長期処方」に該当しない場合の点数が一番高くなっています。
これは逆に言うと、1と2に該当しちゃうと、減算されるってことです。
ただ、処方料・処方箋料には、ある要件を満たすと、減算されなくなる場合があります。
そこで、この記事では、1の「向精神薬多剤投与」における減算しなくてもよい要件について、備忘録的にまとめておきます。
こんな人に読んでいただけると嬉しいです。
- 医療事務の仕事をしている
- 医療機関で、施設基準等の管理を担当している
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2の「向精神薬長期処方」における減算しなくてもよい要件については、こちらの記事でまとめています。
向精神薬多剤投与とは?
処方料や処方箋料を、1の「向精神薬多剤投与」として算定するのは、1回の処方において次のいずれかに該当する場合です。
- 抗不安薬を3種類以上処方
- 睡眠薬を3種類以上処方
- 抗うつ薬を3種類以上処方
- 抗精神病薬を3種類以上処方
- 抗不安薬と睡眠薬をあわせて4種類以上処方
抗不安薬、睡眠薬、抗うつ薬及び抗精神病薬の種類数は一般名で計算します。
また、抗不安薬、睡眠薬、抗うつ薬及び抗精神病薬の種類については、診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(算定上の解釈通知)の「別紙36」にて、次のように定められています。
【抗不安薬】
- オキサゾラム
- クロキサゾラム
- クロラゼプ酸二カリウム
- ジアゼパム
- フルジアゼパム
- ブロマゼパム
- メダゼパム
- ロラゼパム
- アルプラゾラム
- フルタゾラム
- メキサゾラム
- トフィソパム
- フルトプラゼパム
- クロルジアゼポキシド
- ロフラゼプ酸エチル
- タンドスピロンクエン酸塩
- ヒドロキシジン塩酸塩
- クロチアゼパム
- ヒドロキシジンパモ酸塩
- エチゾラム
- ガンマオリザノール
【睡眠薬】
- ブロモバレリル尿素
- 抱水クロラール
- エスタゾラム
- フルラゼパム塩酸塩
- ニトラゼパム
- ニメタゼパム
- ハロキサゾラム
- トリアゾラム
- フルニトラゼパム
- ブロチゾラム
- ロルメタゼパム
- クアゼパム
- アモバルビタール
- バルビタール
- フェノバルビタール
- フェノバルビタールナトリウム
- ペントバルビタールカルシウム
- トリクロホスナトリウム
- リルマザホン塩酸塩水和物
- ゾピクロン
- ゾルピデム酒石酸塩
- エスゾピクロン
- ラメルテオン
- スボレキサント
- レンボレキサント
- メラトニン
【抗うつ薬】
- クロミプラミン塩酸塩
- ロフェプラミン塩酸塩
- トリミプラミンマレイン酸塩
- イミプラミン塩酸塩
- アモキサピン
- アミトリプチリン塩酸塩
- ノルトリプチリン塩酸塩
- マプロチリン塩酸塩
- ペモリン
- ドスレピン塩酸塩
- ミアンセリン塩酸塩
- セチプチリンマレイン酸塩
- トラゾドン塩酸塩
- フルボキサミンマレイン酸塩
- ミルナシプラン塩酸塩
- パロキセチン塩酸塩水和物
- 塩酸セルトラリン
- ミルタザピン
- デュロキセチン塩酸塩
- エスシタロプラムシュウ酸塩
- ベンラファキシン塩酸塩
- ボルチオキセチン臭化水素酸塩
【抗精神病薬】
<定型薬>
- クロルプロマジン塩酸塩
- クロルプロマジンフェノールフタリン酸塩
- ペルフェナジンフェンジゾ酸塩
- ペルフェナジン
- ペルフェナジンマレイン酸塩
- プロペリシアジン
- フルフェナジンマレイン酸塩
- プロクロルペラジンマレイン酸塩
- レボメプロマジンマレイン酸塩
- ピパンペロン塩酸塩
- オキシペルチン
- スピペロン
- スルピリド
- ハロペリドール
- ピモジド
- ゾテピン
- チミペロン
- ブロムペリドール
- クロカプラミン塩酸塩水和物
- スルトプリド塩酸塩
- モサプラミン塩酸塩
- ネモナプリド
- レセルピン
<非定型薬>
- リスペリドン
- クエチアピンフマル酸塩
- ペロスピロン塩酸塩水和物(ペロスピロン塩酸塩)
- オランザピン
- アリピプラゾール(アリピプラゾール水和物)
- ブロナンセリン
- クロザピン
- パリペリドン
- パリペリドンパルミチン酸エステル
- アセナピンマレイン酸塩
- ブレクスピプラゾール
- ルラシドン塩酸塩
<持続性抗精神病注射薬剤>
- ハロペリドールデカン酸エステル
- フルフェナジンデカン酸エステル
- リスペリドン
- アリピプラゾール(アリピプラゾール水和物)
- パリペリドンパルミチン酸エステル
ちなみに、「抗不安薬・睡眠薬・抗うつ薬・抗精神病薬の種類」と「向精神薬多剤投与の条件」をあわせたものをエクセルで作成してあります。(自分用ですが)
使っていただけそうなら、ご活用ください。
こんな感じの表です。
【エクセルファイルのダウンロード(無料)】
向精神薬多剤投与でも減算されない場合(要件)
医科診療報酬点数表では、処方料・処方箋料の「1.向精神薬多剤投与」について、次のように定められています。
上記のカッコ書きによると、
「臨時の投薬等のもの及び3種類の抗うつ薬又は3種類の抗精神病薬を患者の病状等によりやむを得ず投与するものを除く」
となっています。
つまり、
- 臨時の投薬等のもの
- 患者の病状等によりやむを得ず投与するもの(3種類の抗うつ薬又は3種類の抗精神病薬に限る)
については、向精神薬多剤投与でも減算しなくてよいってことです。
さらに言うと、「2.7種類以上の内服薬の投与または向精神薬長期投与」または「3.1及び2以外」で、算定していいよってことです。
じゃあ、
- 臨時の投薬等のもの
- 患者の病状等によりやむを得ず投与するもの(3種類の抗うつ薬又は3種類の抗精神病薬に限る)
って、具体的になんなの?ってことになりますよね。
それについては、「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(算定上の解釈通知)」に載っていますので、1つずつ説明していきます。
「臨時の投薬等のもの」とは?
次の3つのものが、「臨時の投薬等のもの」に該当します。
- 転医時多剤投与
- 薬剤切替時の一時的な新旧薬の併用
- 臨時投与
転医時多剤投与
転医時多剤投与とは、
- 他の医療機関で、向精神薬多剤投与されている
- その患者さんが転医してきた
- その患者の初診日から6ヶ月間(精神科の初診日)
のすべてに該当する場合に、向精神薬多剤投与でも減算しなくてよいというものです。
法的根拠としては、次のとおりです。
(イ) 精神疾患を有する患者が、当該疾患の治療のため、当該保険医療機関を初めて受診した日において、他の保険医療機関で既に向精神薬多剤投与されている場合の連続した6か月間。
この場合、診療報酬明細書の摘要欄に、当該保険医療機関の初診日を記載すること。
薬剤切替時の一時的な新旧薬の併用
薬剤切替時の一時的な新旧薬の併用とは、
- 向精神薬多剤投与に該当しない期間が1か月以上継続している
- 向精神薬が投与されている
- 症状の改善が不十分またはみられず、薬剤の切り替えが必要
- 既に投与されている薬剤と新しく導入する薬剤を一時的に併用する
- 薬剤切替日から3ヶ月間(年2回まで)
のすべてに該当する場合に、向精神薬多剤投与でも減算しなくてよいというものです。
法的根拠としては、次のとおりです。
(ロ)向精神薬多剤投与に該当しない期間が1か月以上継続しており、向精神薬が投与されている患者について、当該患者の症状の改善が不十分又はみられず、薬剤の切り替えが必要であり、既に投与されている薬剤と新しく導入する薬剤を一時的に併用する場合の連続した3か月間。(年2回までとする。)
この場合、診療報酬明細書の摘要欄に、薬剤の切り替えの開始日、切り替え対象となる薬剤名及び新しく導入する薬剤名を記載すること。
臨時投与
臨時投与とは、
- 連続する投与期間が、2週間以内または14回以内のもの
- 「抗うつ薬」または「抗精神病薬」を3種類以上処方した場合
のすべてに該当する場合に、向精神薬多剤投与でも減算しなくてよいというものです。
法的根拠としては、次のとおりです。
(ハ) 臨時に投与した場合(臨時に投与した場合とは、連続する投与期間が2週間以内又は 14回以内のものをいう。1回投与量については、1日量の上限を超えないよう留意すること。なお、投与中止期間が1週間以内の場合は、連続する投与とみなして投与期間を計算する。)
なお、抗不安薬及び睡眠薬については、臨時に投与する場合についても種類数に含める。
この場合、診療報酬明細書の摘要欄に、臨時の投与の開始日を記載すること。
「患者の病状等によりやむを得ず投与するもの」とは?
患者の病状等によりやむを得ず投与するものとは、
- 3種類の抗うつ薬又は3種類の抗精神病薬であること
- 精神科の診療に係る経験を十分に有する医師として別紙様式39を用いて厚生局に届出した医師が処方したもの
のいずれも満たすことをいいます。
ここでの注意点は、「3種類」というところです。
あくまでも、「3種類」の場合に適用されるものなので、抗うつ薬または抗精神病薬を4種類以上処方した場合は減算となります。
また、「精神科の診療に係る経験を十分に有する医師」とは、原則、次の2つの要件を満たす医師のことです。
- 日本精神神経学会が認定する精神科専門医であること
- 日本精神神経学会が認定する研修を修了していること
法的根拠としては、次のとおりです。
(ニ) 抗うつ薬又は抗精神病薬に限り、精神科の診療に係る経験を十分に有する医師として別紙様式39を用いて地方厚生(支)局長に届け出たものが、患者の病状等によりやむを得ず投与を行う必要があると認めた場合。
なお、ここでいう精神科の診療に係る経験を十分に有する医師とは以下のいずれにも該当するものであること。
① 臨床経験を5年以上有する医師であること。
② 適切な保険医療機関において3年以上の精神科の診療経験を有する医師であること。なお、ここでいう適切な保険医療機関とは、医師に対する適切な研修を実施するため、常勤の指導責任者を配置した上で、研修プログラムの策定、医師に対する精神科医療に係る講義の提供、症例検討会の実施等を満たす保険医療機関を指す。
③ 精神疾患に関する専門的な知識と、ICD-10(平成21年総務省告示第176号(統計法第 28条及び附則第3条の規定に基づき、疾病、傷害及び死因に関する分類の名称及び分類表を定める件)の「3」の「(1) 疾病、傷害及び死因の統計分類基本分類表」に規定する分類をいう)においてF0からF9までの全てについて主治医として治療した経験を有すること。
④ 精神科薬物療法に関する適切な研修を修了していること。
【向精神薬多剤投与】
(問72)向精神薬多剤投与を行った場合の減算の除外規定について、「抗うつ薬又 は抗精神病薬に限り、精神科の診療に係る経験を十分に有する医師として別 紙様式39を用いて地方厚生(支)局長に届け出たものが、患者の病状等によ りやむを得ず投与を行う必要があると認めた場合」とあり、別紙様式39で、 このことを確認できる文書を添付することとされているが、何を指すのか。
(答) 日本精神神経学会が認定する精神科専門医であることを証する文書及び日本 精神神経学会が認定する研修を修了したことを証する文書を添付すること。
出典:厚生労働省「疑義解釈資料の送付について(その1)平成26年3月31日」
【処方料等】
(問13)「疑義解釈資料の送付について(その1)」(平成26年3月31日付け事務連絡)の問72において、精神科の診療に係る経験を十分に有する医師については、日本精神神経学会が認定する精神科専門医であることを証する文書及び日本精神神経学会が認定する研修を修了したことを証する文書を「別紙様式39」に添付して地方厚生(支)局長に届け出ることとされているが、他にどのような医師が精神科の診療に係る経験を十分に有する医師に該当するのか。
(答)当該要件への該当の可否については、個別に各地方厚生(支)局に確認されたい。
出典:厚生労働省「疑義解釈資料の送付について(その8)平成28年11月17日」
精神科の診療に係る経験を十分に有する医師として届出する「別紙様式39」とは?
厚生局に、届出する「別紙様式39」とは次のような様式です。
この届出は、医師が退職した場合や要件を満たさなくなった場合にも、都度、届出が必要です。
【精神科の診療に係る経験を十分に有する医師に係る届出書添付書類】
ちなみに、
- 日本精神神経学会が認定する精神科専門医であること
- 日本精神神経学会が認定する研修を修了していること
の認定証とはこんな書類です。(参考までに)
【精神科専門医認定証】
【精神科薬物療法研修会修了証】
向精神薬多剤投与を行った保険医療機関は、厚生局への届出が必要
向精神薬多剤投与の実績については、「別紙様式40」にて、厚生局へ届出が必要です。
【向精神薬多剤投与に係る報告書】
向精神薬多剤投与に係る報告書の届出の頻度、提出期限は、次のとおりです。
実績期間 | 届出月 |
4~6月 | 7月 |
7~9月 | 10月 |
10~12月 | 1月 |
1~3月 | 4月 |
睡眠薬と抗うつ薬が、それぞれ多剤投与されていた場合の算定
患者さんによっては、
- 抗不安薬を3種類以上処方
- 睡眠薬を3種類以上処方
- 抗うつ薬を3種類以上処方
- 抗精神病薬を3種類以上処方
が複数該当することがあると思います。
たとえば、睡眠薬を3種類、抗うつ薬を3種類の処方などです。
このときの処方理由が、「転医時多剤投与」または「薬剤切替時の一時的な新旧薬の併用」であれば、睡眠薬3種類と抗うつ薬3種類の両方が減算されない要件に該当しますので、減算対象にはなりません。
ただ、このときの処方理由(要件)が「厚生局へ届出した医師による処方」の場合、抗うつ薬3種類は減算されない要件に該当しますが、睡眠薬3種類は減算されない要件に該当しないため、処方料(処方箋料)は、減算対象となります。
まとめ
ここで、「向精神薬多剤投与時の算定ルール」について、まとめておきます。
向精神薬多剤投与に該当する場合
- 抗不安薬を3種類以上処方
- 睡眠薬を3種類以上処方
- 抗うつ薬を3種類以上処方
- 抗精神病薬を3種類以上処方
- 抗不安薬と睡眠薬をあわせて4種類以上処方
向精神薬多剤投与でも減算されない場合
- 転医時多剤投与(初診日から6ヶ月間)
- 薬剤切替時の一時的な新旧薬の併用(切替日から3ヶ月間・年2回まで)
- 臨時投与(抗うつ薬、抗精神病薬に限る)
- 厚生局へ届出した医師が、3種類の抗うつ薬または3種類の抗精神病薬を処方した場合
保険医療機関としては、極力、減算せずに算定したいところです。
そのためにも、制度の理解を深め、適切に判断していきたいですね。
わかりづらい通知が多いですけどね・・・
なお、向精神薬多剤投与の複雑な算定判断を、パッと見でできる「向精神薬多剤投与にかかる算定判断フローチャート(エクセル)」を作成しました。
こんな表です。
こちらの記事で、紹介していますので、ぜひ、チェックしてみてください。
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最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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