この記事では、
介護人材を確保するために、介護職員等特定処遇改善加算における「経験・技能のある介護職員」の基準をどう設定をすればいいか?
について、僕の考えをまとめています。
こんな人に読んでいただけると嬉しいです。
- 介護職員さんの採用に苦労している
- 「経験・技能のある介護職員」の基準設定に悩んでいる
- 「介護職員等特定処遇改善加算」の制度を知りたい
「経験・技能のある介護職員」の基準設定は目的から考えよう
介護職員等特定処遇改善加算は、
- 賃金改善の対象者とその定義
- 賃金改善の方法
- 賃金改善額
などの取扱いについて、かなり柔軟な設定が可能となっており、事業所側の判断に委ねられている部分が多くなっています。
なので、事業主としては、介護職員さんのさらなる処遇改善を行うにあたり、
「どういう運用ルールにするか?」
について、かなり悩むと思います。
そんな運用ルールを設定する中で、特に悩ましいのが、
「経験・技能のある介護職員」
の基準(定義)設定です。
主な理由としては、
- 基準設定の自由度が高すぎる
- 介護職員さんの採用活動に大きな影響がある
という2点です。
もうちょっと、わかりやすく言うと、
「経験・技能のある介護職員の基準設定は、介護人材を確保するための戦略に直結する」
ってことです。
これらの理由から、「経験・技能のある介護職員」の基準設定はかなり慎重に行う必要がありますし、介護人材を確保するための戦略(目的)にあわせて考えるべきだと思います。
自由度が高いうえ、介護職の採用に大きな影響がある「経験・技能のある介護職員」の基準設定
介護職員等処遇改善加算における「経験・技能のある介護職員」とは、法令上、次のように定められています。
【経験・技能のある介護職員】
介護福祉士であって、経験・技能を有する介護職員と認められる者をいう。
具体的には、介護福祉士の資格を有するとともに、所属する法人等における勤続年数10年以上の介護職員を基本としつつ、他の法人における経験や、当該職員の業務や技能等を踏まえ、各事業所の裁量で設定することとする。
出典:厚生労働省「介護職員等特定処遇改善加算に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について」
【介護職員等特定処遇改善加算の配分対象と配分ルールについて】
問4
経験・技能のある介護職員について、勤続10年以上の介護福祉士を基本とし、介護福祉士の資格を有することを要件としつつ、勤続10年の考え方については、事業所の裁量で設定できることとされているが、どのように考えるのか。
(答)
「勤続10年の考え方」については、
- 勤続年数を計算するにあたり、同一法人のみだけでなく、他法人や医療機関等での経験等も通算する
- すでに事業所内で設けられている能力評価や等級システムを活用するなど、10年以上の勤続年数を有しない者であっても業務や技能等を勘案して対象とする
など、各事業所の裁量により柔軟に設定可能である。
出典:厚生労働省「2019年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.1)(平成31年4月12日)」
つまり、
「経験・技能のある介護職員の定義は、事業所ごとに自由に設定していいよ」
ってことです。
なので、かなり色々なケースが考えられます。
たとえば、
- 介護福祉士の資格を取ってから、同じ事業所で勤続10年
- 介護福祉士の資格を取ってから、同じ法人(グループ)で勤続10年
- 介護福祉士の資格を取る前の勤務期間を含んだ、同じ事業所で勤続10年
- 介護福祉士の資格を取る前の勤務期間を含んだ、同じ法人(グループ)で勤続10年
- 介護福祉士の資格を取ってからの、介護福祉士としての経験年数10年
- 介護福祉士の資格を取る前の経験年数を含んだ、介護福祉士としての経験年数10年
- 勤続年数も経験年数も、10年必要なし?
などなど。
もちろん、「賃金改善対象者」のルールが変わるということは、介護職員さんの給与設定に大きな違いが出てきます。
だって、資格や経験年数が同じでも、賃金改善する事業所と賃金改善しない事業所が出てくるってことですから。
結果、「経験・技能のある介護職員」の基準設定によっては、
- 退職者の増加
- 面接希望者(応募者)の減少
など、人材確保に大きな影響が出る可能性があります。
特定処遇改善加算の目的は、離職防止?それとも、採用促進?
介護職員等処遇改善加算の「経験・技能のある介護職員」の基準は、目的を明確にすると設定しやすくなります。
たとえば、次のように。(あくまで、僕の考えです)
介護福祉士の離職防止を最優先するなら
現在、介護福祉士さんの在籍(勤務者)が多く、かつ、勤続年数が長いのであれば、離職防止に注力するべきでしょう。
ですので、経験・技能のある介護職員の基準は、
「勤続年数(10年)」
で設定したほうが効果的だと思います。
ただ、「勤続年数」での基準設定は、他の事業所からの採用においては、かなりの足かせになる場合があります。
10年以上その事業所で働かないと、「経験・技能のある介護職員」として、賃金改善が受けられないわけですから、転職先として選んでもらえる確率が低くなるというのが、その理由です。
経験豊富な介護福祉士を多く採用するなら
一方、「これから経験のある介護福祉士さんをどんどん採用していきたい」と思うなら、経験・技能のある介護職員の基準は、
「経験年数(10年)」
で設定したほうが効果的だと思います。
介護福祉士としての経験が10年以上あれば、入職と同時に賃金改善の対象者となりますので、転職先として、かなり魅力的な職場となるからです。
あとは、この2つの基準設定を基本としつつ、人材不足などの状況などにより、
- 介護職員等処遇改善加算の介護給付費から事業所負担額(持ち出し分)を検討
- 勤続・経験期間(10年)の検討
- 一人ひとりの処遇改善額の検討
を行い、微調整していくのがいいかな~って思います。
特定処遇改善加算の算定するには、計画書への「経験・技能のある介護職員」の基準設定の記載が必須
介護職員等特定処遇改善加算を算定するには、
- 年度単位での加算算定の場合は、毎年2月末まで
- 年度途中からの加算算定の場合は、前々月の末日まで
に「介護職員等特定処遇改善計画書」などの届出をしなければなりません。
この計画書には、「経験・技能のある介護職員」の基準設定の考え方(定義)を記載することになっていますので、計画書等の届出を行う時点で、「経験・技能のある介護職員」の基準設定(定義)をしておく必要があります。
法的根拠は、次のとおりです。
②賃金改善計画書の記載
五 賃金改善を行う賃金項目及び方法(別紙様式2の(1)⑪)
賃金改善を行う賃金項目(増額若しくは新設した又はする予定である給与の項目の種類(基本給、手当、賞与等)等)、賃金改善の実施時期や対象職員、一人当たりの平均賃金改善見込額をいい、当該事項について可能な限り具体的に記載すること。なお、「経験・技能のある介護職員」の基準設定の考え方については、必ず記載すること。
出典:厚生労働省「介護職員等特定処遇改善加算に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について」
ちなみに、「介護職員等特定処遇改善計画書」とは、こんな様式です。
また、「経験・技能のある介護職員」の基準設定の考え方については、赤く囲った部分に記載します。
まとめ
ここで、介護人材を確保するための介護職員等特定処遇改善加算の「経験・技能のある介護職員」の基準設定の考え方について一覧表にしておきます。
【目的別、経験・技能のある介護職員の基準設定】
目 的 | 定 義 | デメリット |
介護福祉士の離職防止 |
勤続年数で基準設定 | 求職者の応募が減る |
介護福祉士の採用 | 経験年数で基準設定 |
対象者数によっては、事業所の負担が増える |
介護人材の確保という意味では、「介護職員等特定処遇改善加算」は、プラスにもマイナスにもなります。
ぜひ、目的に応じた運用ルールを設定し、「介護職員等特定処遇改善加算」の効果が最大化するように検討してみてください。
賃金改善にかかる取り扱いが、かなり柔軟ということもあり、事業所ごとの最適解は違ってくると思いますので。
なお、介護職員等特定処遇改善加算は、「賃金改善の対象となるグループ」の選択も、事業所側の判断に委ねられています。
もし、「賃金改善の対象となるグループ」の選択でも悩んでいるなら、こちらの記事をご覧ください。
僕の考えをまとめていますので。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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