感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下、感染症法)では、新型コロナウイルス感染症は、「新型インフルエンザ等感染症」に分類されています。
新型インフルエンザ等感染症は、入院勧告の対象となっているため、都道府県知事は、必要に応じて、入院を勧めることができます。
そのときの入院先は、原則、感染症指定医療機関となりますが、緊急その他やむを得ない理由があるときは、感染症指定医療機関以外の医療機関(以下、感染症指定外医療機関)への入院となります。
たとえば、新型コロナウイルスの感染が拡大している状況などの場合です。
入院勧告における医療費は、公費負担となるため、診療報酬の請求をするのに、
- 公費負担者番号
- 受給者番号
が必要となります。
そこで、この記事では、「新型コロナ患者を感染症指定外医療機関が入院対応した場合の公費負担番号等の発行の流れ」についてまとめておきます。
「入院患者から新型コロナ陽性が出たときの請求はどうすればいいの?」という人のお役に立てば嬉しいです。
新型コロナウイルス感染症発生届を出せば「公費負担者番号・受給者番号」が発行される
感染症指定外医療機関における新型コロナの入院医療費の公費負担番号等は、次のような流れで発行されます。
- 「新型コロナウイルス感染症発生届」を提出(または、HER-SYSに入力)【医療機関 ⇒ 保健所】
- 「入院勧告書」と「感染症患者療養費支給申請書」の送付【保健所 ⇒ 患者またはその家族】
- 「感染症患者療養費支給申請書」の提出【患者またはその家族 ⇒ 保健所】
- 「公費負担者番号・受給者番号」の発行【保健所 ⇒ 医療機関】
つまり、医療機関としては、原則、新型コロナの発生届を出すだけです。
それでは、1つずつ、詳しく説明していきます。
「新型コロナウイルス感染症発生届」を提出(または、HER-SYSに入力)【医療機関 ⇒ 保健所】
医師は、新型コロナウイルス感染症の患者を診断したとき、医療機関の所在地を管轄する保健所へ「新型コロナウイルス感染症発生届」を提出(または、HER-SYSに入力)しなければなりません。
感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律
(医師の届出)
第十二条 医師は、次に掲げる者を診断したときは、厚生労働省令で定める場合を除き、第一号に掲げる者については直ちにその者の氏名、年齢、性別その他厚生労働省令で定める事項を、第二号に掲げる者については七日以内にその者の年齢、性別その他厚生労働省令で定める事項を最寄りの保健所長を経由して都道府県知事(保健所を設置する市又は特別区(以下「保健所設置市等」という。)にあっては、その長。以下この章(次項及び第三項、次条第三項及び第四項、第十四条第一項及び第六項、第十四条の二第一項及び第八項並びに第十五条第十三項を除く。)において同じ。)に届け出なければならない。
一 一類感染症の患者、二類感染症、三類感染症又は四類感染症の患者又は無症状病原体保有者、厚生労働省令で定める五類感染症又は新型インフルエンザ等感染症の患者及び新感染症にかかっていると疑われる者
二 厚生労働省令で定める五類感染症の患者(厚生労働省令で定める五類感染症の無症状病原体保有者を含む。)
保健所は、この届出をもとに、
- 入院勧告
- 公費負担者番号と受給者番号の発行
の準備をします。
「入院勧告書」と「感染症患者療養費支給申請書」の送付【保健所 ⇒ 患者またはその家族】
入院患者さんから新型コロナ陽性が出た場合、入院が必要かどうかの判断は必要ないため、入院している病院への入院勧告となります。
その際、患者またはその家族に次の書類が送付されます。
- 入院勧告書
- 感染症患者療養費支給申請書
こんな書類です。
【入院勧告書(参考)】
出典:渋谷区「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律に基づく入院の勧告について」
【感染症患者療養費支給申請書(参考)】
出典:厚生労働省「感染症法第42条の規定に基づく入院患者の療養費の支給について」
「感染症患者療養費支給申請書」の提出【患者またはその家族 ⇒ 保健所】
患者またはその家族が、「感染症患者療養費支給申請書」を作成し、保健所へ提出します。
通常、入院勧告の対象となっている感染症で、感染症指定外医療機関に入院したときの医療費は、患者さんが医療機関で一旦支払いを行い、後日、都道府県知事にその医療費を請求し、支給を受けることになっています。
ただ、新型コロナウイルス感染症による入院については、患者さんが、次の内容に同意した場合に限り、医療機関の窓口での支払いは不要となります。
「感染症指定外医療機関で現物給付を行うこと」
同意については、感染症患者療養費支給申請書にて行う場合が多いようです。
こんな感じです。
この同意により、医療機関は、通常のレセプト同様に、公費として
- 国民健康保険団体連合会
- 社会保険診療報酬支払基金
へ請求することができます。
法的根拠としては、次のとおりです。
感染症法第42条の規定に基づく入院患者の療養費の支給について
厚生労働省 令和2年5月26日
1.指定外医療機関における入院及びその際の療養費の支給について
○ 都道府県知事は、法第19条第1項ただし書、第20条第1項ただし書等の規定により、緊急その他やむを得ない理由があるときは、患者に対し、指定外医療機関に入院することを勧告し、又は入院させることができること等とされている。新型コロナウイルス感染症の患者数の増加等に鑑みれば、今般の新型コロナウイルス感染症の患者の指定外医療機関への入院は「緊急その他やむを得ない場合」に該当しうるものであり、地域の医療体制の整備に当たっては、感染症指定医療機関のみならず、指定外医療機関への入院も含めた体制整備を行っていただいているところである。
○ また、患者が、法第37条第1項各号に掲げる医療を受けた場合、
- これを感染症指定医療機関において受けたときは、法第37条第1項の規定により都道府県(保健所を設置する市及び特別区を含む。以下同じ。)がこれに要する費用を負担し、このため、法第40条第1項の規定により感染症指定医療機関は当該費用を都道府県に請求するものとされており、
- これを指定外医療機関において受けたときは、法第42条第1項の規定により、都道府県がこれに要した費用につき、療養費を患者等に対して支給することができるものとされており、その支給については、現在、患者等が一旦費用を負担した上で事後に都道府県に請求して支給を受けることとされているところである。
2.新型コロナウイルス感染症に関連する療養費の支給について
○ 新型コロナウイルス感染症に関しては、1.のとおり、指定外医療機関への入院や、それに基づく法第42条第1項の規定による療養費の支給が増加していると考えられるところ、この支給の方法について、次の①及び②の要件を満たす場合には、患者等に直接療養費を支給することに代えて、
ア) 患者本人に対し、指定外医療機関において現物給付を行うとともに、
イ) 指定外医療機関に対し、都道府県から当該療養費の額を交付することとして差し支えないこととする。
※ ア)を行うに当たっての整理は、以下のとおり。
- 患者等が都道府県に対して有する療養費の請求権を指定外医療機関に譲渡し、その代わりに、それと同額を指定外医療機関に請求する。
- 指定外医療機関は、患者等の自己負担額と当該請求された額を相殺する(現物給付)。
- 指定外医療機関は、患者等から譲渡された都道府県への請求権に基づき、都道府県に請求する(後述のとおり、審査支払機関を経由して請求を行う)。
<要件>
① 都道府県知事は、入院患者等に対する法第42条の規定に基づく療養費の支給について、ア)の方法により行うことについて、患者等から書面による同意を得ること。
※ 当該同意の取得に当たっては、当該療養費の支給に係る申請書において当該同意に係る欄を設けるなどの対応が考えられる。
② 指定外医療機関は、都道府県知事に対して療養費の支払いを請求し、都道府県知事は当該療養費の額を支払うこと。
○ あわせて、都道府県知事は、本通知に基づく指定外医療機関に対する支払いに係る事務を、社会保険診療報酬支払基金及び国民健康保険団体連合会(以下「審査支払機関」という。)に委託することができることとし、その場合の費用の請求については、指定外医療機関において、診療報酬請求書及び診療報酬明細書を作成し、審査支払機関に提出することによって行うこととする。
○ なお、その場合の運用上の取扱いについては、法第37条と同様に取り扱うこととし、例えば、公費負担番号・受給者番号の連絡、費用の請求等については、「感染症の予防及び感染症の患者に対する費用の請求事務について」(平成11年3月19日付健医発第456 号厚生省保健医療局長通知)と同様に取り扱うこととする。
(参考)
「感染症の予防及び感染症の患者に対する費用の請求事務について」(平成11年3月19日付健医発第456号厚生省保健医療局長通知)における診療報酬の請求、公費負担者番号等の設定等の取扱いは次のとおり。
- 診療報酬の請求については、診療報酬請求書及び診療報酬明細書を作成し、審査支払機関に提出することによって行うこと。
- 公費負担者番号については、全て国で統一的に設定するものであり、法別番号(注:新型コロナウイルス感染症につては「28」)、都道府県番号、実施機関(保健所)番号、検証番号の順に記載すること。
- 受給者番号については、実施機関(保健所)ごとに設定するものであり、法に基づく入院が必要とされる感染症については、疾病番号(注:新型コロナウイルス感染症については「7」)、暦年、受給者番号、検証番号の順に記載すること。
※ 公費負担者番号及び受給者番号については、実施機関(保健所)が医療機関に連絡することとされている(「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律による医療の公費負担の取扱いについて」(平成11年3月19日付健医発第455号厚生省保健医療局長通知)参照)。
「公費負担者番号・受給者番号」の発行【保健所 ⇒ 医療機関】
提出された「感染症患者療養費支給申請書」をもとに、保健所は、医療機関に対して「公費負担者番号・受給者番号」の連絡を行います。
公費負担者番号・受給者番号の連絡は、原則、「公費負担決定通知書の写し」が送付によって行われます。
「公費負担決定通知書の写し」が届くまでの期間は、新型コロナウイルスの感染が拡大している状況などの場合、早くても1~2ヶ月かかります。
結果、ほとんどの場合、翌月10日までの診療報酬の請求までに間に合わないため、「月遅れ請求」となります。
一応、根拠です。
新型コロナウイルス感染症に係る感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律による医療の公費負担の申請手続について(周知)
厚生労働省 事務連絡
令和4年7月14日
7 通知第1の3(1)及び第3において、勧告保健所は、公費負担すべき旨を決定したときは、申請者に対し、費用負担する旨の決定通知を行うとともに、当該医療機関の管理者に当該決定通知の写しを送付することとしているが、患者本人に対し現物給付を行う場合(都道府県等が法第37条の入院患者に対する公費負担の実施及び法第42条の療養費の支給について、当該患者等に対し直接入金しない場合)であって、かつ、法第37条第2項の患者の自己負担額の徴収を行わない場合には、当該通知を申請者に対して行わず、当該決定通知の写しを当該医療機関の管理者に送付する等、保健所の業務の状況等に応じて、自治体の判断により柔軟に対応することを妨げるものではないこと。
感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律による医療の公費負担の取扱いについて
厚生労働省 健医発第456号
平成11年3月19日通知第1の3 公費負担の決定
(1)勧告保健所は、申請書を受理し、公費負担すべき旨を決定したときは、速やかに、申請者に対し、自己負担額の月額を明示して費用負担する旨の決定通知を行うとともに、当該感染症指定医療機関の管理者に当該決定通知の写しを送付すること。
なお、その際、併せて公費負担番号、公費負担受給者番号、公費負担の機関(始期、患者が既に退院している場合には、及び終期)を連絡すること。
通知第3 療養費の支給(法第42条関係)
1 緊急その他やむを得ない理由により、感染症指定医療機関以外の病院若しくは診療所に入院した患者又は結核指定医療機関以外の病院、診療所若しくは薬局で法第37条の2の医療を受けた結核患者に対する療養費の支給に関する取扱いについては、第1又は第2に準ずること。
2 緊急その他やむを得ない理由により、法第37条第1項の申請をしないで感染症指定医療機関に入院し医療を受けた場合には、退院後、申請をすることができるようになり次第速やかに申請するよう指導すること。
また、緊急その他やむを得ない理由により、法第37条の2第1項の申請をしないで、結核指定医療機関で同条の医療を受けた場合には、申請をすることができるようになり次第速やかに申請するよう指導すること。
なお、これらの場合の療養費の申請に関する取扱いについては、第1又は第2に準ずること。
新型コロナ患者を入院対応したときの診療報酬請求の流れ(公費負担番号等の発行)
感染症指定外医療機関で、新型コロナ患者さんを入院対応した場合の診療報酬請求の流れが、パッと見でわかるように、フローチャートにしておきます。
【新型コロナ入院患者の診療報酬請求の流れ(感染症指定外医療機関)】
まとめ
新型コロナウイルス感染症患者さんにおける、入院医療費の公費負担手続きは、都道府県(保健所)によって変わってきます。
また、新型コロナウイルスの感染状況などによっても変わってきます。
新型コロナ患者を入院対応した場合は、保健所への事前確認を徹底してください。
ちなみに、うちの地域は、
- 市中の感染状況
- 施設内でのクラスターの発生有無
などにより、手続きが変わってきます。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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