【2024年4月施行】医師の働き方改革の内容と対応(A水準対象医療機関)

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医師、ノートパソコン、診察

令和6年(2024年)4月1日以降、医師の働き方改革として、時間外労働の上限規制が適用となります。

診療所などの宿直勤務が不要な医療機関は、あまり問題じゃないかもしれませんが、医療法で宿直が義務付けられている病院については、かなり大きな問題だと思います。

 

【医療法における宿直の考え方(医療法 第16条)】

医業を行う病院管理者は病院に医師を宿直させなければならない。

 

というのも、「宿直」というのは、本来、通常の労働時間だからです。

つまり、宿直の勤務時間も労働時間にカウントされるってことです。

 

そこで、この記事では、

「病院(A水準対象医療機関の場合)は、医師の働き方改革に関して何をしておけばいいのか?」

について、制度内容を含め、まとめておきます。

 

こんな人に読んでいただけると嬉しいです。

  • 病院で労務管理の仕事をしている
  • 病院の管理者
  • 長時間労働している医師

医師の働き方改革のポイント(A水準対象医療機関の場合)

2024年4月1日から適用される医師の働き方改革で、病院が対応すべきなのは、大きく分けると、次の2つです。

  • 時間外労働の上限規制
  • 追加的健康確保措置の実施

 

それでは、1つずつ、説明していきます。

 

ちなみに、A水準対象医療機関とは、一般的な医療機関のことで、次のいずれにも該当しない医療機関のことです。

【特定労務管理対象機関】

  • 【連携B水準】医師の派遣を通じて、地域の医療提供体制を確保するために必要な医療機関
  • 【B水準】地域医療の確保に欠かせない機能(3次救急等)を持つ医療機関
  • 【C-1水準】医師の集中的技能向上のための医療機関(初期・後期研修医の場合)
  • 【C-2水準】医師の集中的技能向上のための医療機関(高度技能の修得研修の場合)

時間外労働の上限規制への対応(A水準対象医療機関の場合)

2024年4月以降、医師についても、一般の職員同様に、時間外労働時間の上限は次のようになります。

原則として、月45時間かつ年360時間まで(休日労働は含みません)

 

ただし、臨時的な特別な事情がある場合(特別条項を締結する場合)は、「月100時間未満」かつ「1年960時間」までが医師の時間外労働時間の上限となります。

特別条項を締結する場合の上限時間は、休日労働を含みます。

 

そして、時間外労働の上限規制に対し、医療機関が行うべきこととしては、次の3つです。

  • 医師の労働時間管理(タイムカードやICカードなどによる記録)
  • 36協定の締結と労働基準監督署への届出
  • 宿日直が「常態として、ほとんど労働する必要のない勤務」の場合は、労働基準監督署へ「断続的な宿直又は日直勤務許可」を申請する

医師の労働時間管理(タイムカードやICカードなどによる記録)

医師に出勤・退勤等の打刻をしてもらっていない場合は、すぐにタイムカード、ICカードなどを使って、記録するようにしてください。

そもそも、労働時間の適正管理については、2024年4月1日からの医師の働き方改革とは関係なく、事業主の義務です。

一応、根拠です。

労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準

2 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置

(1)始業・終業時刻の確認及び記録

使用者は、労働時間を適正に管理するため、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録すること。

(2)始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法

使用者が始業・終業時刻を確認し、記録する方法としては、原則として次のいずれかの方法によること。

ア 使用者が、自ら現認することにより確認し、記録すること。

イ タイムカード、ICカード等の客観的な記録を基礎として確認し、記録すること。

出典:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署

36協定の締結と労働基準監督署への届出

労働基準法では、労働時間は原則として、1日8時間・1週40時間以内としています。

これを「法定労働時間」といいます。

 

法定労働時間を超えて職員さんに時間外労働(残業)や休日労働をしてもらうには、

「時間外・休日労働に関する協定届(36協定届)」

を労働基準監督署への届出しなければなりません。

 

こんな様式です。

【時間外労働・休日労働に関する協定届(一般条項)様式第9号】

時間外労働・休日労働に関する協定届(一般条項)様式第9号

時間外労働時間の上限を「月45時間」かつ、年「360時間」までにする場合は、こちらの様式を届出します。

 

【時間外労働・休日労働に関する協定届(特別条項)様式第9号の2】

時間外労働・休日労働に関する協定届(特別条項)様式第9号の2 1枚目

時間外労働・休日労働に関する協定届(特別条項)様式第9号の2 2枚目

時間外労働時間の上限を「月45時間」かつ、年「360時間」を超えて、「月100時間未満」かつ「1年960時間」までにする場合は、こちらの様式を届出します。

 

様式は、こちらからダウンロードできます。

東京労働局「時間外・休日労働に関する協定届(36協定届)」

宿日直が「常態として、ほとんど労働する必要のない勤務」の場合は、労働基準監督署へ「断続的な宿直又は日直勤務許可」を申請する

「断続的な宿直又は日直勤務許可」がある場合、宿日直の勤務時間は、労働時間にはカウントされません。

逆に言うと、「断続的な宿直又は日直勤務許可」を受けていない場合は、いわゆる「寝当直」であっても労働時間にカウントされちゃいます。

 

もちろん、宿日直が労働時間にカウントされる場合、「時間外労働の割増賃金」の支払いも必要となります。

宿日直が「常態として、ほとんど労働する必要のない勤務」の場合は、必ず、労働基準監督署へ「断続的な宿直又は日直勤務許可」を申請しましょう。

 

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追加的健康確保措置の実施(A水準対象医療機関の場合)

時間外労働の上限規制において、月の上限(100時間未満)を超えて勤務する医師に対しては、医療機関が次のような追加的健康確保措置を実施する必要があります。

  1. 面接指導
  2. 連続勤務時間を28時間までに制限
  3. 勤務間インターバル(休息)の9時間確保
  4. 代償休息を付与する

 

A水準対象医療機関の場合、2~4は努力義務となりますので、最低限実施しないといけないのは「面接指導」だけです。

特定労務管理対象機関(B、C水準)では、「追加的健康確保措置の実施]は、努力義務ではなく、法的義務となります。

面接指導の実施可能者と内容

面接指導が行えるのは、次の要件をいずれも満たす医師だけです。

  1. 当該医療機関の管理者でないこと
  2. 医師の健康管理を行うのに必要な知識を修得させるための講義を修了していること

 

根拠です。

Q̲G-3.面接指導実施医師は産業医でなくても良いのでしょうか。また、産業医であれば無条件で面接指導実施医師として良いのでしょうか。

 

A.面接指導実施医師となるためには以下2つの要件を満たす必要があります。

  • 面接指導対象医師が勤務する病院又は診療所の管理者でないこと
  • 医師の健康管理を行うのに必要な知識を修得させるための講義を修了していること

このため、産業医ではなくとも、上記2つの要件を満たさす場合は、面接指導実施医師として面接指導を実施することができます。

また、産業医であっても、上記2つの要件を満たさなければ、面接指導実施医師として面接指導を実施することはできません。

出典:厚生労働省「医師の働き方改革に関するFAQ」

 

「医師の健康管理を行うのに必要な知識を修得させるための講義(面接指導実施医師養成講習会)」は、こちらのサイトで受講できます。

医師の働き方改革 面接指導実施医師養成ナビ

 

面接指導実施医師養成講習会の概要は次のとおりです。

  • 受講資格:医師
  • 費用:無料
  • 講習会の形式:すべてオンライン(約200分の動画視聴)
  • 確認テスト:動画視聴後に20問(全問正解が必須)
  • 修了証の有効期限:なし

 

また、面接指導時に確認すべき内容としては、

  • 勤務の状況
  • 睡眠の状況
  • 疲労の蓄積の状況
  • 心身の状況

とされており、面接指導により、その医師に相当の疲労が認められた場合には、睡眠や休息等に関する助言や保健指導を行います。

 

なお、面接指導は、原則、勤務時間中に実施する必要があります。

このとおりです。

Q̲G-5.面接指導は勤務時間中に実施するのが良いのでしょうか。

また、勤務時間中に実施した場合、その時間に対する賃金は発生するのでしょうか。

 

A.面接指導については、医療機関としての業務を遂行するにあたり、当然実施されなければならない性格のものであることから、対象者の意向も考慮しつつ、原則、勤務時間中に実施する必要があります。

また、面接指導を受けるのに要した時間に係る賃金の支払いについては、当然には 医療機関の負担すべきものではなく、労使協議して定めるべきものですが、労働者の健康の確保は、医療機関の円滑な運営の不可欠な条件であることを考えると、面接指導を受けるのに要した時間の賃金を医療機関が支払うことが望ましいです。

出典:厚生労働省「医師の働き方改革に関するFAQ」

宿日直許可を得た宿日直と勤務間インターバルの関係

A水準対象医療機関の場合、努力義務ではありますが、追加的健康確保措置における

  • 連続勤務時間を28時間までに制限
  • 勤務間インターバル

も、かなり問題になると思います。

 

というのも、宿日直許可を得ていない宿日直の場合、翌日の勤務が難しくなるからです。

つまり、場合によっては「医師の増員が必要になる」ってことです。

 

ただし、宿日直許可があれば、宿日直の勤務時間を「勤務間インターバル」とみなすことができますので、翌日の勤務も可能です。

「勤務間インターバル」とみなすことができる宿日直許可を得た宿日直は、9時間以上の連続した宿日直を行った場合だけです。

 

こんなイメージです。

医師の働き方改革(勤務間インターバルのイメージ)

出典:厚生労働省「追加的健康確保措置(連続勤務時間制限・勤務間インターバル規制等)の運用について」

 

まぁ、許可が得られるなら「断続的な宿直又は日直勤務許可」は必須ですよね。

もちろん、「常態として、ほとんど労働する必要のない勤務」であればですが・・・

まとめ

ここで、「医師の働き方改革の内容と対応(A水準対象医療機関)」についておさらいです。

  • 医師の労働時間管理(タイムカードやICカードなどによる記録)
  • 36協定の締結と労働基準監督署への届出
  • 「断続的な宿直又は日直勤務許可」の申請を検討
  • 医師の健康管理を行うのに必要な知識を修得させるための講義(面接指導実施医師養成講習会)の受講

 

医師の時間外労働の上限規制は、2024年4月1日からですが、僕としては、「あと1年ある」ではなく、「もう1年しかない」だと思っています。

うちもそうですが、早めに対応して、すっきりしておきたいですね。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

 

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