1回の処方において、次の投薬を行った場合、通院精神療法は、50/100に減算されます。
- 抗うつ薬を3種類以上
- 抗精神病薬を3種類以上
ただし、通院精神療法は、ある要件を満たすと「抗うつ薬を3種類以上・抗精神病薬を3種類以上」の投薬を行っても減算されなくなる場合があります。
そこで、この記事では、「通院精神療法」における減算しなくてもよい要件について、備忘録的にまとめておきます。
こんな人に読んでいただけると嬉しいです。
- 医療事務の仕事をしている
- 医療機関で、施設基準等の管理を担当している
通院精神療法の診療報酬と減算対象となる所定点数
3種類以上の抗うつ薬または3種類以上の抗精神病薬を処方した場合、通院精神療法は、減算され、次のような点数になります。
【通院精神療法】
項目 | 内 容 | 所定点数 | 減算後の点数 |
イ | 措置入院を経て退院した患者に対し | 660点 | 330点 |
ロ(1) | 初診日60分以上 精神保健指定医の場合 | 560点 | 280点 |
ロ(2) | 初診日60分以上 精神保健指定医以外の場合 | 540点 | 270点 |
ハ(1)① | 再診日30分以上 精神保健指定医の場合 | 410点 | 205点 |
ハ(1)② | 再診日30分以上 精神保健指定医以外の場合 | 390点 | 195点 |
ハ(2)① | 再診日30分未満 精神保健指定医の場合 | 330点 | 165点 |
ハ(2)② | 再診日30分未満 精神保健指定医以外の場合 | 315点 | 158点 |
抗うつ薬および抗精神病薬とは?
抗うつ薬および抗精神病薬の種類については、診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(算定上の解釈通知)の「別紙36」にて、次のように定められています。
【抗うつ薬】
- クロミプラミン塩酸塩
- ロフェプラミン塩酸塩
- トリミプラミンマレイン酸塩
- イミプラミン塩酸塩
- アモキサピン
- アミトリプチリン塩酸塩
- ノルトリプチリン塩酸塩
- マプロチリン塩酸塩
- ペモリン
- ドスレピン塩酸塩
- ミアンセリン塩酸塩
- セチプチリンマレイン酸塩
- トラゾドン塩酸塩
- フルボキサミンマレイン酸塩
- ミルナシプラン塩酸塩
- パロキセチン塩酸塩水和物
- 塩酸セルトラリン
- ミルタザピン
- デュロキセチン塩酸塩
- エスシタロプラムシュウ酸塩
- ベンラファキシン塩酸塩
- ボルチオキセチン臭化水素酸塩
【抗精神病薬】
<定型薬>
- クロルプロマジン塩酸塩
- クロルプロマジンフェノールフタリン酸塩
- ペルフェナジンフェンジゾ酸塩
- ペルフェナジン
- ペルフェナジンマレイン酸塩
- プロペリシアジン
- フルフェナジンマレイン酸塩
- プロクロルペラジンマレイン酸塩
- レボメプロマジンマレイン酸塩
- ピパンペロン塩酸塩
- オキシペルチン
- スピペロン
- スルピリド
- ハロペリドール
- ピモジド
- ゾテピン
- チミペロン
- ブロムペリドール
- クロカプラミン塩酸塩水和物
- スルトプリド塩酸塩
- モサプラミン塩酸塩
- ネモナプリド
- レセルピン
<非定型薬>
- リスペリドン
- クエチアピンフマル酸塩
- ペロスピロン塩酸塩水和物(ペロスピロン塩酸塩)
- オランザピン
- アリピプラゾール(アリピプラゾール水和物)
- ブロナンセリン
- クロザピン
- パリペリドン
- パリペリドンパルミチン酸エステル
- アセナピンマレイン酸塩
- ブレクスピプラゾール
- ルラシドン塩酸塩
<持続性抗精神病注射薬剤>
- ハロペリドールデカン酸エステル
- フルフェナジンデカン酸エステル
- リスペリドン
- アリピプラゾール(アリピプラゾール水和物)
- パリペリドンパルミチン酸エステル
抗うつ薬または抗精神病薬の3種類以上の投与でも減算されない場合(要件)
医科診療報酬点数表では、通院精神療法の減算について、次のように定められています。
この文言の中に、
「別に厚生労働大臣が定める要件を満たさない場合」
とあります。
つまり、逆に言うと、
「別に厚生労働大臣が定める要件を満たす場合、3種類以上の抗うつ薬又は3種類以上の抗精神病薬を投与した場合であっても減算しなくてよい」
ってことです。
じゃあ、
「別に厚生労働大臣が定める要件」
って、具体的になんなの?ってことになりますよね。
それについては、
- 別表10の2の4 通院・在宅精神療法の注6及び精神科継続外来支援・指導料の注5に規定する別に厚生労働大臣が定める要件
- 診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(算定上の解釈通知)
に明記されています。
通院精神療法の減算にかかる「別に厚生労働大臣が定める要件」とは?
次の3つの要件が、別に厚生労働大臣が定める要件のことです。
別表第10の2の4
通院・在宅精神療法の注6及び精神科継続外来支援・指導料の注5に規定する別に厚生労働大臣が定める要件
以下に掲げる要件をいずれも満たすこと。
一 当該保険医療機関における三種類以上の抗うつ薬及び三種類以上の抗精神病薬の投与の頻度が低いこと。
二 当該患者に対し、適切な説明及び医学管理が行われていること。
三 当該処方が臨時の投薬等のもの又は患者の病状等によりやむを得ないものであること。
ただ、これだと抽象的過ぎてで、ぜんぜんわからないですよね。
なので、「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(算定上の解釈通知)」をもとに、1つずつ説明していきます。
当該保険医療機関における三種類以上の抗うつ薬及び三種類以上の抗精神病薬の投与の頻度が低いこと
この要件を満たすには、次のどちらかの要件をクリアする必要があります。
- 3種類以上の抗うつ薬または3種類以上の抗精神病薬を投与した患者の割合が1割未満
- 3種類以上の抗うつ薬または3種類以上の抗精神病薬を投与した患者の人数が20人未満
この要件の患者割合と患者数は、次のように計算します。
「② ÷ ① = 患者割合」
「② = 患者数」
番号 | 内 容 |
① | 抗うつ薬又は抗精神病薬の投与を受けている患者数 |
② | 抗うつ薬3種類以上又は抗精神病薬3種類以上の投与を受けている患者数 |
たとえば、①が900人、②が18人だった場合、
20人 ÷ 900人 = 2%
となります。
また、①が10人、②が2人だった場合(極端な例ですみません)、
2人 ÷ 10人 = 20%
で、患者割合が10%以上になりますが、もう1つの要件である患者数が、20人未満なので、要件を満たすこととなります。
ちなみに、「抗うつ薬3種類以上又は抗精神病薬3種類以上の投与を受けている患者の割合(人数)」は、処方料・処方箋料における「向精神薬多剤投与に係る報告書」の直近に報告した数値を用いることとされています。
こんな様式です。
【向精神薬多剤投与に係る報告書】
この報告書は、実績期間と届出月が決まっていて、次のようになっています。
実績期間 | 届出月 |
4~6月 | 7月 |
7~9月 | 10月 |
10~12月 | 1月 |
1~3月 | 4月 |
なので、4月に提出した報告書の数値が、4~6月に適用されるイメージですね。
多少のずれがあるかもですが・・・
法的根拠としては、次のとおりです。
ア 「当該保険医療機関において、3種類以上の抗うつ薬及び3種類以上の抗精神病薬の投与の頻度が一定以下であること」とは、当該保険医療機関において抗うつ薬又は抗精神病薬のいずれかを処方された患者のうち、3種類以上の抗うつ薬又は3種類以上の抗精神病薬を処方された患者の割合が1割未満であるか、その数が20名未満であることをいう。
なお、抗うつ薬及び抗精神病薬の種類数は区分番号「F100」処方料における計算方法に準じる。
抗うつ薬又は抗精神病薬を処方された患者のうち、3種類以上の抗うつ薬又は3種類以上の抗精神病薬を処方された患者の割合は、区分番号「F100」処方料(3)ウにより報告したもののうち、直近のものを用いることとする。
また、抗不安薬を3種類以上、睡眠薬を3種類以上、抗うつ薬を3種類以上又は抗精神病薬を3種類以上投与(以下この部において「向精神薬多剤投与」という。)していないために当該報告を行わなかった保険医療機関については、当該要件を満たすものとして扱う。
当該患者に対し、適切な説明及び医学管理が行われていること
「適切な説明及び医学管理」とは、当該診療月を含む過去3ヶ月以内に、次の4つのことをすべて行っていることをいいます。
- その投薬により見込む効果と特に留意する副作用等について説明し、診療録にその内容等を記載
- 服薬状況を患者等から聞き、診療録に記載
- 3種類以上の抗精神病薬を投与している場合は、客観的な指標による抗精神病薬の副作用評価を行っている
- 減薬の可能性について検討し、今後の減薬計画または減薬計画が立てられない理由を患者等に説明し、診療録にその内容等を記載
3の「客観的な指標による抗精神病薬の副作用評価」については、薬原性錐体外路症状評価尺度を使った評価のことです。
その際、次の用紙(別紙様式33)を使用します。
【DIEPSS(薬原性錐体外路症状評価尺度)前項目評価用紙】
法的根拠としては、次のとおりです。
イ 「当該患者に対し、適切な説明や医学管理が行われていること」とは、当該月を含む過去3か月以内に以下の全てを行っていることをいう。
(イ) 患者又はその家族等の患者の看護や相談に当たる者(以下イにおいて「患者等」という。)に対して、当該投与により見込む効果及び特に留意する副作用等について説明し、診療録に説明内容及び患者等の受け止めを記載していること。ただし、説明を行うことが診療上適切でないと考える場合は、診療録にその理由を記載することで代替して差し支えない。
(ロ) 服薬状況(残薬の状況を含む。)を患者等から聴取し、診療録に記載していること。
(ハ) 3種類以上の抗精神病薬を投与している場合は、「注5」に掲げる客観的な指標による抗精神病薬の副作用評価を行っていること。
(ニ) 減薬の可能性について検討し、今後の減薬計画又は減薬計画が立てられない理由を患者等に説明し、診療録に説明内容及び患者等の受け止めを記載していること。
当該処方が臨時の投薬等のもの又は患者の病状等によりやむを得ないものであること
臨時の投薬等のもの又は患者の病状等によりやむを得ないものとは、処方料・処方箋料の「向精神薬多剤投与」における減算とならない要件と同じです。
「臨時の投薬等のもの」とは?
次の3つのものが、「臨時の投薬等のもの」に該当します。
- 転医時多剤投与
- 薬剤切替時の一時的な新旧薬の併用
- 臨時投与
転医時多剤投与
転医時多剤投与とは、
- 他の医療機関で、向精神薬多剤投与されている
- その患者さんが転医してきた
- その患者の初診日から6ヶ月間(精神科の初診日)
のすべてに該当する場合に、向精神薬多剤投与でも減算しなくてよいというものです。
法的根拠としては、次のとおりです。
(イ) 精神疾患を有する患者が、当該疾患の治療のため、当該保険医療機関を初めて受診した日において、他の保険医療機関で既に向精神薬多剤投与されている場合の連続した6か月間。
この場合、診療報酬明細書の摘要欄に、当該保険医療機関の初診日を記載すること。
薬剤切替時の一時的な新旧薬の併用
薬剤切替時の一時的な新旧薬の併用とは、
- 向精神薬多剤投与に該当しない期間が1か月以上継続している
- 向精神薬が投与されている
- 症状の改善が不十分またはみられず、薬剤の切り替えが必要
- 既に投与されている薬剤と新しく導入する薬剤を一時的に併用する
- 薬剤切替日から3ヶ月間(年2回まで)
のすべてに該当する場合に、向精神薬多剤投与でも減算しなくてよいというものです。
法的根拠としては、次のとおりです。
(ロ)向精神薬多剤投与に該当しない期間が1か月以上継続しており、向精神薬が投与されている患者について、当該患者の症状の改善が不十分又はみられず、薬剤の切り替えが必要であり、既に投与されている薬剤と新しく導入する薬剤を一時的に併用する場合の連続した3か月間。(年2回までとする。)
この場合、診療報酬明細書の摘要欄に、薬剤の切り替えの開始日、切り替え対象となる薬剤名及び新しく導入する薬剤名を記載すること。
臨時投与
臨時投与とは、
- 連続する投与期間が、2週間以内または14回以内のもの
- 「抗うつ薬」または「抗精神病薬」を3種類以上処方した場合
のすべてに該当する場合に、向精神薬多剤投与でも減算しなくてよいというものです。
法的根拠としては、次のとおりです。
(ハ) 臨時に投与した場合(臨時に投与した場合とは、連続する投与期間が2週間以内又は 14回以内のものをいう。1回投与量については、1日量の上限を超えないよう留意すること。なお、投与中止期間が1週間以内の場合は、連続する投与とみなして投与期間を計算する。)
なお、抗不安薬及び睡眠薬については、臨時に投与する場合についても種類数に含める。
この場合、診療報酬明細書の摘要欄に、臨時の投与の開始日を記載すること。
「患者の病状等によりやむを得ず投与するもの」とは?
患者の病状等によりやむを得ず投与するものとは、
- 3種類の抗うつ薬又は3種類の抗精神病薬であること
- 精神科の診療に係る経験を十分に有する医師として別紙様式39を用いて厚生局に届出した医師が処方したもの
のいずれも満たすことをいいます。
ここでの注意点は、「3種類」というところです。
あくまでも、「3種類」の場合に適用されるものなので、抗うつ薬または抗精神病薬を4種類以上処方した場合は減算となります。
また、「精神科の診療に係る経験を十分に有する医師」とは、原則、次の2つの要件を満たす医師のことです。
- 日本精神神経学会が認定する精神科専門医であること
- 日本精神神経学会が認定する研修を修了していること
法的根拠としては、次のとおりです。
(ニ) 抗うつ薬又は抗精神病薬に限り、精神科の診療に係る経験を十分に有する医師として別紙様式39を用いて地方厚生(支)局長に届け出たものが、患者の病状等によりやむを得ず投与を行う必要があると認めた場合。
なお、ここでいう精神科の診療に係る経験を十分に有する医師とは以下のいずれにも該当するものであること。
① 臨床経験を5年以上有する医師であること。
② 適切な保険医療機関において3年以上の精神科の診療経験を有する医師であること。なお、ここでいう適切な保険医療機関とは、医師に対する適切な研修を実施するため、常勤の指導責任者を配置した上で、研修プログラムの策定、医師に対する精神科医療に係る講義の提供、症例検討会の実施等を満たす保険医療機関を指す。
③ 精神疾患に関する専門的な知識と、ICD-10(平成21年総務省告示第176号(統計法第 28条及び附則第3条の規定に基づき、疾病、傷害及び死因に関する分類の名称及び分類表を定める件)の「3」の「(1) 疾病、傷害及び死因の統計分類基本分類表」に規定する分類をいう)においてF0からF9までの全てについて主治医として治療した経験を有すること。
④ 精神科薬物療法に関する適切な研修を修了していること。
【向精神薬多剤投与】
(問72)向精神薬多剤投与を行った場合の減算の除外規定について、「抗うつ薬又 は抗精神病薬に限り、精神科の診療に係る経験を十分に有する医師として別 紙様式39を用いて地方厚生(支)局長に届け出たものが、患者の病状等によ りやむを得ず投与を行う必要があると認めた場合」とあり、別紙様式39で、 このことを確認できる文書を添付することとされているが、何を指すのか。
(答) 日本精神神経学会が認定する精神科専門医であることを証する文書及び日本 精神神経学会が認定する研修を修了したことを証する文書を添付すること。
出典:厚生労働省「疑義解釈資料の送付について(その1)平成26年3月31日」
【処方料等】
(問13)「疑義解釈資料の送付について(その1)」(平成26年3月31日付け事務連絡)の問72において、精神科の診療に係る経験を十分に有する医師については、日本精神神経学会が認定する精神科専門医であることを証する文書及び日本精神神経学会が認定する研修を修了したことを証する文書を「別紙様式39」に添付して地方厚生(支)局長に届け出ることとされているが、他にどのような医師が精神科の診療に係る経験を十分に有する医師に該当するのか。
(答)当該要件への該当の可否については、個別に各地方厚生(支)局に確認されたい。
出典:厚生労働省「疑義解釈資料の送付について(その8)平成28年11月17日」
精神科の診療に係る経験を十分に有する医師として届出する「別紙様式39」とは?
厚生局に、届出する「別紙様式39」とは次のような様式です。
この届出は、医師が退職した場合や要件を満たさなくなった場合にも、都度、届出が必要です。
【精神科の診療に係る経験を十分に有する医師に係る届出書添付書類】
ちなみに、
- 日本精神神経学会が認定する精神科専門医であること
- 日本精神神経学会が認定する研修を修了していること
の認定証とはこんな書類です。(参考までに)
【精神科専門医認定証】
【精神科薬物療法研修会修了証】
まとめ
ここで、「通院精神療法の多剤投与(抗うつ薬・抗精神病薬)の減算ルール」について、まとめておきます。
通院精神療法が減算となる場合
- 抗うつ薬を3種類以上処方
- 抗精神病薬を3種類以上処方
抗うつ薬または抗精神病薬の3種類以上の投与でも減算されない場合(次のすべての要件満たす場合)
- 3種類以上の抗うつ薬及び3種類以上の抗精神病薬の投与の頻度が一定以下(1割未満または20人未満)
- 適切な説明及び医学管理(効果、副作用、服薬状況、抗精神病薬の副作用評価、減薬計画等の説明と記録)
- 臨時の投薬等のもの又は患者の病状等によりやむを得ないものであること(転医時多剤投与、薬剤切替時の一時的な新旧薬の併用、臨時投与、届出した医師による処方のいずれかに該当)
保険医療機関としては、極力、減算せずに算定したいところです。
そのためにも、制度の理解を深め、適切に判断していきたいですね。
わかりづらい通知が多いですけどね・・・
なお、向精神薬多剤投与の複雑な算定判断を、パッと見でできる「向精神薬多剤投与にかかる算定判断フローチャート(エクセル)」を作成しました。
こんな表です。
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最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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