社会保険料を計算するときに使用する「標準報酬月額」の決定(改定)は、健康保険法で、次の4つの方法(タイミング)で行うと定められています。
【標準報酬月額の決め方】
- 資格取得時の決定
- 定時決定
- 随時改定
- 育児休業等終了時の改定
この記事では、これらの標準報酬月額の決定(改定)方法の中から、「随時改定」についてまとめています。
「社会保険料の仕組みを知りたい」
「仕事で社会保険手続きを担当している」
という人に、読んでいただけると嬉しいです。
標準報酬月額の「随時改定」とは
「健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料」の標準報酬月額は、原則、1年に1回しか改定されませんが、昇給等の固定的賃金の変動により大幅に月額給与(報酬月額)が変わったときは、定時決定(毎年1回の改定)を待たずに標準報酬月額が改定されます。
この定時改定を待たずに行う標準報酬月額の改定を、「随時改定」といいます。
なお、定時決定については、こちらの記事を。
随時改定の対象者は、次の3つの条件を満たす人
随時改定は、次の3つの条件をすべて満たす場合に行われます。
【随時改定の3つの条件】
- 昇給又は降給等により、固定的賃金に変動があること
- 変動月からの3ヶ月間に支給された報酬(残業手当等の非固定的賃金を含む)の平均月額に該当する標準報酬月額と、現在の標準報酬月額との間に2等級以上の差があること
- 3ヶ月とも支払基礎日数が17日以上であること(特定適用事業所に勤務する短時間労働者の場合は、支払基礎日数が11日以上)
それでは、1つずつ説明していきます。
昇給又は降給等により、固定的賃金に変動があること
随時改定を行うには、何より「固定的賃金」の変動が必要です。
なぜなら、どんなに給与が上がった(下がった)としても、固定的賃金の変動がなければ、標準報酬月額の変更は行われないからです。
なお、固定的賃金とは、
- 基本給
- 資格手当
- 役職手当
- 住宅手当
- 通勤手当
- 時給
- 日給
などの「勤務実績の影響を受けない、支給額や支給率が決まっているもの」をいいますが、
非固定的賃金とは、
- 残業手当
- 宿日直手当
- 早・遅番手当
のような「勤務実績などによって、支給額が変動するもの」をいいます。
わかりやすく、まとめると、
「昇給、昇格、時給アップなどがなければ、どんなに残業をして給与が増えても、随時改定は行われない」
ってことです。
変動月からの3ヶ月間に支給された報酬(残業手当等の非固定的賃金を含む)の平均月額に該当する標準報酬月額と、現在の標準報酬月額との間に2等級以上の差があること
随時改定を行うには、次の2つの標準報酬月額の差が、2等級以上必要です。
- 固定的賃金の変動があった月を起算月とした3ヶ月間の月額平均給与から算定する標準報酬月額
- 現在の標準報酬月額
なお、「標準報酬月額の2等級以上の差」とは、こういうことです。
赤:17等級(標準報酬月額200,000円)から
青:19等級(標準報酬月額240,000円)へ
たとえば、次のような場合、標準報酬月額に2等級の差が生じますので、随時改定の対象になります。
【昇格により、基本給と役職手当で月額4万円アップ】
(単位:円)
変更前の給与 | 変更後の給与 | |
基本給 | 180,000 | 200,000 |
役職手当 | 0 | 20,000 |
残業手当 | 15,000 | 15,000 |
通勤手当 | 8,900 | 8,900 |
合計 | 203,900 | 243,900 |
標準報酬月額 | 200,000 | 240,000 |
【関連記事】
標準報酬月額の決定方法や計算手順については、こちらの記事を。
3ヶ月とも支払基礎日数が17日以上であること(特定適用事業所に勤務する短時間労働者の場合は、支払基礎日数が11日以上)
支払基礎日数とは、給与計算の対象となる日数のことで、常勤(正社員)と非常勤(パート、アルバイト)で取扱いが分かれています。
- 常勤者(月給制)の場合は、休日を含めた1ヶ月の総日数
- 非常勤(時給制)の場合は、1ヶ月の出勤日数
なお、有給休暇の日数は、支払基礎日数に含めます。
随時改定を行うには、固定的賃金の変動があった月を起算月とした3ヶ月すべてにおいて、「支払基礎日数17日以上(特定適用事業所に勤務する短時間労働者の場合は11日以上)」が必要になります。
ですので、固定的賃金の変動があり、標準報酬月額の差が2等級以上になったとしても、1ヶ月でも出勤日数(支払基礎日数)が規定より少なければ、随時改定は行われません。
なお、短時間就労者(パート、アルバイトなど)の随時改定も、賃金基礎日数が17日以上が条件となります。
定時決定では、賃金基礎日数が15日以上ですが・・・
【関連記事】
特定適用事業所については、こちらの記事を。
随時改定の標準報酬月額は、4ヶ月目から適用される
随時改定の3つの条件を満たした場合は、次のようなサイクルで標準報酬月額が改定されます。
【随時改定のサイクル】
ちなみに、随時改定によって決定された標準報酬月額は、次回の8月分の社会保険料まで適用となります。
ただし、7月に改定された場合は、来年の8月分まで適用です。
たとえば、
「随時改定で2018年7月に標準報酬月額が改定された場合は、2019年8月分の社会保険料の計算まで適用される」
ってことです。
随時改定の例外「こんなときは、随時改定の対象にはならない」
随時改定の3つの条件を満たしていても、随時改定が行われない場合があります。
次の場合は、随時改定の対象とはなりません。
(ア)固定的賃金は上がったが、残業手当等の非固定的賃金が減ったため、変動後の引き続いた3か月分の報酬の平均額による標準報酬月額が従前より下がり、2等級以上の差が生じた場合
(イ)固定的賃金は下がったが、非固定的賃金が増加したため、変動後の引き続いた3か月分の報酬の平均額による標準報酬月額が従前より上がり、2等級以上の差が生じた場合
出典:日本年金機構「随時改定」
わかりやすく言うと、
- 固定的賃金が上がったなら、標準報酬月額も上がらないといけない
- 固定的賃金が下がったなら、標準報酬月額も下がらないといけない
ってことです。
なお、逆に、標準報酬月額に2等級以上の変更がなくても、随時改定の対象となる場合もあります。
このとおり。
随時改定は、固定的賃金の変動月から3か月間に支給された報酬の平均月額に該当する標準報酬月額と従前の標準報酬月額との間に2等級以上の差が生ずることが条件ですが、標準報酬月額等級表の上限又は下限にわたる等級変更の場合は、2等級以上の変更がなくても随時改定の対象となります。
出典:日本年金機構「随時改定」
まとめ
ここで、「標準報酬月額の随時決定のポイント」についてまとめておきます。
- 随時改定とは、昇給等の固定的賃金の変動により大幅に月額給与(報酬月額)が変わったときに行われる「標準報酬月額」の見直しのこと
- 随時改定の条件は、「固定的賃金の変動」「標準報酬月額に2等級以上の差が生じること」、「支払基礎日数17日以上(短時間労働者は、11日以上)」の3つ
- 随時改定の標準報酬月額は、固定的賃金の変動から4ヶ月目に適用
- 随時改定によって決定された標準報酬月額は、次回の8月分の社会保険料まで適用
- 固定的賃金と標準報酬月額の増減が合わないときは、随時改定は行われない
随時改定では、原則、固定的賃金の変動があった月から3ヶ月間に支給された給与(報酬)をもとに標準報酬月額を決定しますが、一定の条件を満たすことで、年間給与(報酬)の平均額から標準報酬月額を決定することもできます。(2018年10月1日より)
業務状況などにより、
「通常の随時改定による標準報酬月額」と、
「年間平均額から算出した標準報酬月額」に
大きな差が生じる場合は、検討してみてもいいかもしれません。
ちなみに、僕は、やったことはありません・・・
なので、詳しくは、日本年金機構の公式サイトを。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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