社会保険料を計算するときに使用する「標準報酬月額」の決定(改定)は、健康保険法で、次の4つの方法(タイミング)で行うと定められています。
【標準報酬月額の決め方】
- 資格取得時の決定
- 定時決定
- 随時改定
- 育児休業等終了時の改定
この記事では、これらの標準報酬月額の決定(改定)方法の中から、「育児休業等終了時の改定」についてまとめています。
「社会保険料の仕組みを知りたい」
「仕事で社会保険手続きを担当している」
「産休・育休から復帰したときの社会保険料を安くしたい」
という人に、読んでいただけると嬉しいです。
標準報酬月額の「育児休業等終了時の改定」とは
「健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料」の標準報酬月額は、1年に1回しか改定されないのが原則です。
でも、産前産後休業や育児休業からの復帰後、
- 育児短時間勤務制度の利用
- 残業や夜勤の免除
などにより、育児休業等の開始前よりも給与額が減った場合には、定時決定(毎年1回の改定)を待たずに標準報酬月額が改定することができます。
この定時決定を待たずに行う標準報酬月額の改定を、「育児休業等終了時の改定」といいます。
なお、定時決定については、こちらの記事を。
育児休業等終了時の改定の対象者は、次の3つの条件を満たす人
育児休業等終了時の改定は、次の3つの条件をすべて満たす場合に行われます。
【育児休業等終了時の改定の3つの条件】
- 育児休業等の終了日に、満3歳未満の子どもを養育していること
- 標準報酬月額が、育児休業等の復帰前後において、1等級以上差があること
- 育児休業等終了日の翌日が属する月以後3ヶ月間のうち、少なくとも1か月は、支払基礎日数が17日以上であること
詳しくは、このあと説明します。
それでは、1つずつ説明していきます。
育児休業等の終了日に、満3歳未満の子どもを養育していること
これは、そのままですね。
育児休業等の終了日(職場復帰日の前日)の時点で、3歳未満の子どもを養育している必要があります。
なお、「養育」と「扶養」は別ですので、子どもを「健康保険等の扶養」に入れている必要はありません。
標準報酬月額が、育児休業等の復帰前後において、1等級以上差があること
育児休業等終了時の改定を行うには、次の2つの標準報酬月額の差が、1等級以上必要です。
- 産休または育休終了日の翌日を含む月から、3ヶ月間の月額平均給与(報酬月額)から算定する標準報酬月額
- 産休または育休に入る前の標準報酬月額(これまでの標準報酬月額)
なお、「標準報酬月額の1等級以上の差」とは、こういうことです。
赤:18等級(標準報酬月額220,000円)から
青:17等級(標準報酬月額200,000円)へ
また、「産休または育休終了日の翌日を含む月から3ヶ月間」とは、次のように数えます。
【10月4日に育児休業が終了する場合】
- 産休または育休終了日の翌日「10月5日」
- 起算月「10月」
- 起算月からの3ヶ月「10月、11月、12月」
【10月31日に育児休業が終了する場合】
- 産休または育休終了日の翌日「11月1日」
- 起算月「11月」
- 起算月からの3ヶ月「11月、12月、1月」
【関連記事】
標準報酬月額の決定方法や計算手順については、こちらの記事を。
育児休業等終了日の翌日が属する月以後3ヶ月間のうち、少なくとも1か月は、支払基礎日数が17日以上であること
「育児休業等終了時の改定」で、報酬月額を計算するとき、
- 常勤(正社員)
- 短時間就労者(パート・アルバイトなど)
- 特定適用事業所に勤務する短時間労働者
で「支払基礎日数」の取扱いが変わってきます。
なお、支払基礎日数とは、常勤(正社員)と非常勤(パート、アルバイト)で取扱いが分かれています。
このとおり。(有給休暇の日数は、支払基礎日数に含めます)
- 常勤者(月給制)の場合は、休日を含めた1ヶ月の総日数
- 非常勤(時給制)の場合は、1ヶ月の出勤日数
常勤(正社員)における、支払基礎日数の取扱い
常勤職員の育児休業等終了時の改定は、次のようなルールで行います。
- 「報酬月額」を計算するときは、支払基礎日数が17日以上ある月に限る
- 支払基礎日数が17日未満の月は、除いて「報酬月額」を計算する
- 育児休業終了日の翌日が属する月以後3ヶ月とも支払基礎日数が17日未満の場合は、これまでの標準報酬月額を引き続き適用する
わかりやすく、一覧表にしておきます。
【常勤職員の支払基礎日数の取扱い】
支払基礎日数 | 標準報酬月額の決定方法 |
3ヶ月とも17日以上ある場合 | 3ヶ月の報酬月額の平均額をもとに決定 |
1ヶ月でも17日以上ある場合 | 17日以上の月の報酬月額の平均額をもとに決定 |
3ヶ月とも17日未満の場合 | これまでの標準報酬月額で決定 |
短時間就労者における、支払基礎日数の取扱い
短時間就労者の育児休業等終了時の改定は、次のようなルールで行います。
- 育児休業等終了日の翌日が属する月以後3ヶ月のうち、支払基礎日数が17日以上の月が1ヶ月以上ある場合は、該当月の報酬総額の平均を報酬月額として標準報酬月額を決定する
- 育児休業等終了日の翌日が属する月以後3ヶ月のうち、支払基礎日数がいずれも17日未満の場合は、3ヶ月のうち支払基礎日数が15日以上17日未満の月の報酬総額の平均を報酬月額として標準報酬月額を決定する
- 育児休業等終了日の翌日が属する月以後3ヶ月とも、支払基礎日数が15日未満の場合は、これまでの標準報酬月額を引き続き適用する
これも、わかりやすく、一覧表にしておきます。
【短時間就労者の支払基礎日数の取扱い】
支払基礎日数 | 標準報酬月額の決定方法 |
3ヶ月とも17日以上ある場合 | 3ヶ月の報酬月額の平均額をもとに決定 |
1ヶ月でも17日以上ある場合 | 17日以上の月の報酬月額の平均額をもとに決定 |
3ヶ月とも15日以上17日未満の場合 | 3ヶ月の報酬月額の平均額をもとに決定 |
1ヶ月または2ヶ月は15日以上17日未満の場合(1ヶ月でも17日以上ある場合は除く) | 15日以上17日未満の月の報酬月額の平均額をもとに決定 |
3ヶ月とも15日未満の場合 | これまでの標準報酬月額で決定 |
なお、短時間就労者とは、1日または1週間の労働時間および1ヶ月の所定労働日数が、常勤職員(正社員)の4分の3以上である労働者のことです。
特定適用事業所に勤務する短時間労働者における、支払基礎日数の取扱い
特定適用事業所に勤務する短時間労働者の育児休業等終了時の改定は、次のようなルールで行います。
- 「報酬月額」を計算するときは、支払基礎日数が11日以上ある月に限る
- 支払基礎日数が11日未満の月は、除いて「報酬月額」を計算する
- 育児休業終了日の翌日が属する月以後3ヶ月とも支払基礎日数が11日未満の場合は、これまでの標準報酬月額を引き続き適用する
ここも、わかりやすく、一覧表にしておきます。
【短時間労働者の支払基礎日数の取扱い】
支払基礎日数 | 標準報酬月額の決定方法 |
3ヶ月とも11日以上ある場合 | 3ヶ月の報酬月額の平均額をもとに決定 |
1ヶ月でも11日以上ある場合 | 11日以上の月の報酬月額の平均額をもとに決定 |
3ヶ月とも11日未満の場合 |
これまでの標準報酬月額で決定 |
なお、特定適用事業所については、こちらの記事を。
育児休業等終了時の改定の標準報酬月額は、4ヶ月目から適用される
育児休業等終了時の改定の3つの条件を満たした場合は、次のようなサイクルで標準報酬月額が改定されます。
ちなみに、育児休業等終了時の改定によって決定された標準報酬月額は、次回の8月分の社会保険料まで適用となります。
ただし、7月に改定された場合は、来年の8月分まで適用です。
たとえば、
「育児休業等終了時の改定で2018年7月に標準報酬月額が改定された場合は、2019年8月分の社会保険料の計算まで適用される」
ってことです。
【関連記事】
随時改定については、こちらの記事を。
育児休業等終了時の改定は、被保険者(職員本人)からの申出が必要
標準報酬月額(社会保険料)の改定手続きである「定時決定」「随時改定」は、条件を満たした時点で、事業主によって自動的に手続きされますが、
「育児休業等終了時の改定」については、被保険者(職員本人)からの申出がなければ手続きは行われません。
つまり、自ら申出しないと、
「高いままの社会保険料を、年1回の改定(定時決定)まで、払い続ける」
ってことになります。
なので、忘れずに職場の担当者へ相談(申出)しましょう。
養育期間標準報酬月額特例の申出をすれば、将来の年金受給額が減らない
一般的に、標準報酬月額が下がると、将来受け取れる「厚生年金額」が減ります。
でも、「育児休業等終了時の改定」に関しては、特例措置の適用により、
「産休または育休に入る前の標準報酬月額(これまでの標準報酬月額)にて年金額を計算する」
ということになっています。
つまり、育児休業等終了時の改定で下がった標準報酬月額については、
「社会保険料の支払いは安くなるが、将来の年金額は減らない」
ってことです。
ほんと、メリットしかありませんので、必ず手続きしてください。
「育児休業等終了時の改定」にかかる手続き書類
「育児休業等終了時の改定」および「養育期間標準報酬月額特例」手続きは、次の2つの書類を職場へ提出します。
書き方は、職場の担当者が説明してくれるはず。
育児休業等終了時報酬月額変更届
養育期間標準報酬月額特例申出書
出典:日本年金機構「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置」
まとめ
ここで、「育児休業等終了時の改定のポイント」についてまとめておきます。
- 育児休業等終了時の改定とは、育児休業等の復帰前後で給与額が減った場合に行う「標準報酬月額」の見直しのこと
- 育児休業等終了時の改定の条件は、「満3歳未満の子どもの養育」「標準報酬月額に1等級以上の差が生じること」「支払基礎日数17日以上が1ヶ月以上」の3つ
- 育児休業等終了時の改定の標準報酬月額は、職場復帰の4ヶ月目から適用される
- 育児休業等終了時の改定によって決定された標準報酬月額は、次回の8月分の社会保険料まで適用される
- 育児休業等終了時の改定では、特別措置の適用により、将来の年金額は減らない
社会保険の加入者(被保険者)は、産前産後休業や育児休業を含めた「出産・育児に係る制度」が、非常に手厚くなっています。
ただ、知らないと利用できない制度もありますので、職場の担当者任せにしないで、自分で調べておくことをオススメします。
手続きを忘れられて、困っちゃうのは、自分なんで。
なお、今回紹介した「育児休業等終了時の改定」については、対象になる・ならない関係なく、職場の担当者には相談しておきましょう。
そのほうが、お互いが安心できると思いますので。
【関連記事】
出産・育児に係る制度(給付金・税金・社会保険料免除)については、こちらの記事で紹介しています。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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