「どうすればもっと若手が育つのだろう」
「育成に時間をかけても、なかなか成果が出ない」
「そもそも、今の育成方法は正しいのだろうか?」
これは、多くの企業が直面している、人材育成の共通の課題です。
終身雇用が当たり前ではなくなった現代、若手社員は「この会社でしか通用しないスキル」よりも「どこに行っても通用する市場価値」を求めています。
彼らは、自分のキャリアを自ら切り拓く力を身につけたいと強く願っています。
しかし、多くの企業では未だに「昔ながらの育成」から抜け出せず、若手の成長意欲を十分に引き出せていません。
では、どうすれば若手のやる気を引き出し、自ら成長する組織を創り出すことができるのでしょうか?
その答えは、「育てる」のではなく、「育つ」仕組みをつくることです。
そこで、この記事では、サイバーエージェントの革新的な育成メソッドを解説した書籍「若手育成の教科書」をもとに、若手社員が自ら成長する組織づくりの秘訣を、具体的な方法論と共にご紹介します。
会社の人材育成がうまくいかない根本原因とは?
昔ながらの「育てる」育成法
「人材育成」と聞くと、多くの人が「上司が部下にスキルやノウハウを教え込むこと」をイメージするかもしれません。
上司が手取り足取り教え、部下がそれを忠実にこなす。
これは一見、効率的な育成方法に思えますが、実は大きな落とし穴があります。
この育成方法の根本的な問題は、「やらされる仕事」になってしまうことです。
若手社員は、上司の指示通りに動くうちに、自分で考え、決断する機会を失っていきます。
その結果、「言われたことはできるけど、応用が利かない」「指示がないと動けない」といった、自律性の低い人材になってしまうのです。
さらに、この方法は、上司が常に部下を監視し、細かく指示を出す「マイクロマネジメント」に陥りがちです。
マイクロマネジメントは、部下の主体性を奪い、成長の機会を大きく阻害します。
若手社員が本当に求めているもの
若手社員が成長したいと考える根本的な理由は、「自信」を手にしたいからです。
彼らが求める「自信」とは、単に仕事ができるという自信だけではありません。
- どんな組織、チームでもやっていける自信
- 会社がなくても、自分で稼げるという自信
- 自分の仕事が誰かのためになっているという自信
彼らが本当に求めているのは、こうした根拠のある自信を手にし、自分の市場価値を高めていくことなのです。
しかし、昔ながらの育成法では、この「自信」を育むことができません。
なぜなら、上司がすべてをコントロールしてしまうため、部下が自ら挑戦し、失敗し、そこから学ぶという経験を積む機会が奪われてしまうからです。
若手が自ら育つ「自走サイクル」とは?
「株式会社 サイバーエージェント」では、設立初期から「抜擢」を軸とした独自の若手育成メソッドを確立し、数々の優秀な人材を輩出してきました。
そのメソッドの根幹をなすのが、「育てる」のではなく「育つ」仕組みです。
この仕組みは、以下の「自走サイクル」によって構成されています。
このサイクルを回すことで、若手社員は自ら考え、行動し、成長していくことができます。
抜擢:期待をかける
若手育成において、一番大切なのは「自信を持たせること」です。
そして、その自信を持たせるための最初のステップが「抜擢」です。
「抜擢」とは、特別な人材だけを選び出すことではありません。
すべてのメンバーに「期待をかける」ことです。
- 頼りにしているよ
- あなたに任せたい
- これ、お願いできるかな?
こうした言葉をかけることで、若手社員は「自分は期待されている」と感じ、仕事へのモチベーションを高めます。
抜擢に確信は必要ありません。
あなたの直感や、彼らのポテンシャルにかけてみることが大切です。
もし若手社員がなかなか育たないと感じたら、まずは「期待が足りないのでは?」と疑ってみましょう。
期待をかけることにコストはかかりません。
しかし、若手社員のモチベーションを大きく引き出し、自ら動くきっかけを与えてくれます。
決断:自分で決める経験を増やす
抜擢は、若手社員に「自分で考えて、決断する」機会を与えます。
上司は、ただ仕事を任せるのではなく、「どうすればいいと思う?」といった質問を投げかけ、若手社員自身の言葉で「やります」と宣言させることが重要です。
自分で考え、自分で決めた仕事は、「自分ごと」になります。責任感が芽生え、より深く仕事に向き合うようになります。
そして、この「自分で決断する」という経験こそが、若手社員を大きく成長させるのです。
決断の質は、経験量によって決まります。
だからこそ、若手社員には、小さなことからでも決断の機会をどんどん与え、「決断⇒内省⇒決断」のサイクルを高速で回させることが大切です。
失敗:成長に不可欠なプロセスと捉える
決断をすれば、必ずしも成功するとは限りません。
若手社員は、未経験の仕事に挑戦する中で、多くの失敗を経験するでしょう。
しかし、この失敗こそが、成長の最大のチャンスです。
多くの企業では、失敗をネガティブなものと捉え、失敗した社員を責めてしまいがちです。
でも、それでは若手社員は新しい挑戦を恐れるようになり、成長が止まってしまいます。
大切なのは、失敗を「成長のプロセス」と捉える文化を創ることです。
- 失敗をネガティブなものにしない
- 失敗を話せる職場は、意見を言いやすい職場
- 挑戦した敗者にこそ、セカンドチャンスを与える
失敗したときは、部下をねぎらい、なぜ失敗したのかを一緒に分析し、改善点を次に活かすように促しましょう。
そうすることで、失敗は恐れるべきものではなく、成長のための貴重な経験となります。
学習:失敗を次に活かす
失敗から学びを得るためには、「内省」が必要です。
しかし、多くの若手社員は、失敗を経験しても、それをどう次に活かせばいいのか分からずにいます。
そこで、上司の出番です。
上司は、面談の場で「どうだった?」「なぜうまくいかなかったと思う?」といった質問を投げかけ、若手社員自身に答えを考えさせる手助けをします。
面談で大切なのは、上司が9割話すのではなく、9割聞くことです。
若手社員が自分の言葉で失敗の原因や学びを言語化することで、学びはより深く、確実なものになります。
「育つ」仕組みは、この「抜擢⇒決断⇒失敗⇒学習」のサイクルを、若手社員が自ら回せるようになることで完成します。
このサイクルが自律的に回り始めれば、若手社員はあなたの手を借りなくても、どんどん成長していくでしょう。
【サイバーエージェント式】人が育つ「抜擢メソッド」を実践する3つのポイント
では、実際にこの「抜擢メソッド」をあなたの会社で実践するには、どうすればよいのでしょうか。
ここでは、明日からすぐに使える3つのポイントをご紹介します。
ポイント①:「やります」を引き出すコミュニケーション術
抜擢を成功させるには、若手社員に「やりたいです」と自ら言わせることが重要です。
そのために、日頃から次ようなコミュニケーションを心がけましょう。
- 意味づけをする
若手社員に仕事を任せる際には、その仕事が「なぜ重要なのか」、「どのような目的があるのか」を丁寧に伝えましょう。仕事の全体像や、その仕事が組織に与える影響を理解することで、若手社員はモチベーションを高く保つことができます。 - 信頼残高を貯める
抜擢は、上司と部下の間に信頼関係があってこそ成り立ちます。日頃から、部下の良い点を具体的に褒めたり、感謝を伝えたりして、信頼残高を貯めておきましょう。信頼関係がないまま、いきなり「君に任せるよ」と言っても、部下は「なんで自分なんだろう…」と不安になってしまいます。日々の小さなコミュニケーションが、いざというときの抜擢を成功させる土台となります。 - 具体的に褒める
若手社員を褒める際には、「すごいね」といった抽象的な言葉ではなく、「〇〇の提案、すごく良いね。〇〇という点が特に素晴らしいと思ったよ」のように、発言や行動、考え方の良い点を具体的に伝えましょう。
具体的に褒めることで、若手社員は「自分のこの行動は正しかったんだ」と自信を持つことができます。
また、褒め台詞は、叱るときにも同様に「〇〇という考えは良いけど、今回は〇〇な点が課題だったね」と応用できます。
ポイント②:抜擢の成功確率を高めるための「優先度」
「誰を抜擢すればいいかわからない…」と感じる方もいるかもしれません。
迷ったときは、以下の優先度で抜擢する人材を判断してみましょう。
- 本人のやる気
- すでに同様の経験があり、実績を出している
- 人望がある
最も重要なのは、本人の「やる気」です。
経験や実績がなくても、やる気のある人材は、自ら学び、成長しようとします。
そのため、やる気がある若手社員には、積極的に挑戦の機会を与えましょう。
ポイント③:失敗を許容する「心理的安全性」の高い組織づくり
若手社員が「やりたいです」と手を挙げられる組織は、「失敗しても大丈夫」という心理的安全性が確保されている組織です。
心理的安全性を高めるには、次の3つのポイントを意識しましょう。
- 提案しやすい風土: 意見やアイデアを自由に発言できる雰囲気をつくりましょう。
- 障害を取り除く仕掛け: 新しい挑戦をする際に、部下の足かせとなるような社内ルールや慣習があれば、積極的に見直しましょう。
- 失敗を許容する文化: 失敗を責めるのではなく、挑戦したことを評価する文化を創りましょう。
これらの取り組みを通じて、若手社員が安心して挑戦できる環境を整えることが、結果として組織全体の成長につながります。
まとめ:これからの時代に求められる「自律型人材」を育てるために
多くの企業が人材育成に悩む中、サイバーエージェントの『若手育成の教科書』は、その閉塞感を打ち破るヒントを与えてくれます。
本書のメッセージはシンプルです。
「育てる」のではなく、「育つ」仕組みをつくろう。
その鍵を握るのが、若手社員に自信を持たせる「抜擢」、自ら考える機会を与える「決断」、成長のチャンスと捉える「失敗」、そして次につなげる「学習」からなる「自走サイクル」です。
これからの時代、企業が成長し続けるためには、上司の指示を待つ「指示待ち人材」ではなく、自ら考え、行動する「自律型人材」が不可欠です。
若手社員の「成長したい」という熱い想いを引き出し、彼らが自ら道を切り開いていく力を身につけられるよう、あなたも「抜擢メソッド」を実践してみませんか?
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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