この記事では、複数就業者(副業・兼業している人)における
「健康保険、厚生年金保険、雇用保険の加入要件とその取扱い」
について紹介しています。
こんな人に読んでいただけると嬉しいです。
- 複数の事業所で、社会保険の要件を満たした場合ってどうなるの?
- 社会保険の加入要件って、複数の事業所の勤務内容(勤務日数、賃金など)を合算してもいいの?
- 複数就業者(副業・兼業している人)の傷病手当金などの支給額はどうなるの?
健康保険・厚生年金保険・雇用保険の加入要件は、事業所ごとに判断される
まず、結論です。
複数就業者(副業・兼業をしている人)の健康保険・厚生年金保険・雇用保険の適用については、次のようなルールになっています。
- 加入要件は、事業所ごとに判断される
- 健康保険、厚生年金保険では、同時に複数の事業所で加入要件を満たした場合、各事業所の賃金を合算して、保険料が計算される
- 雇用保険で、同時に複数の事業所で加入要件を満たした場合は、原則として、賃金(給与)の多い方の事業所で加入する
- 各事業所の勤務内容(勤務日数、賃金など)を合算して要件を満たしても、社会保険に加入することはできない
それでは、保険別に詳しく説明していきます。
副業・兼業における「健康保険・厚生年金保険」の取扱い
加入要件(条件)
常勤職員(正社員)については、原則、健康保険・厚生年金保険の被保険者となります。
パート勤務(非常勤)の場合は、次の2つの要件をどちらも満たすことで、健康保険・厚生年金保険に加入することができます。
- 「1週間の所定労働時間」が常用雇用者(常勤職員)の4分の3以上
- 「1月の所定労働日数」が常用雇用者(常勤職員)の4分の3以上
これだと、ちょっとわかりづらいと思うので、具体例をあげておきます。
【前提条件】
- 常勤職員(正社員)の1週間の所定労働時間 40時間
- 常勤職員(正社員)の1月の所定労働日数 20日間
1の条件を満たすには、「40時間×4分の3」で、週30時間以上の勤務時間が必要となります。
そして、2の条件を満たすには、「20日×4分の3」で、月15日以上の勤務日数が必要となります。
健康保険・厚生年金保険へ加入するためには、この両方の条件を満たさなければいけないため、
「1日8時間勤務で、週4日間」
もしくは、
「1日6時間勤務で、週5日間」
というような勤務が必要となります。
なお、あなたが働いている事業所が
- 厚生年金保険の被保険者数が501人以上の事業所
- 労使合意(働いている人の2分の1以上と事業主が社会保険に加入することについて合意すること)に基づき申出をする法人・個人の事業所
- 地方公共団体に属する事業所
のいずれかに該当する場合(特定適用事業所といいます)は、上記の健康保険・厚生年金保険の加入要件を満たせなくても、次の4つの条件をいずれも満たすことで社会保険に加入することができます。
- 週20時間以上の所定労働時間
⇒1ヶ月単位で所定労働時間が定められている場合、1ヶ月の所定労働時間を12分の52で除して算定します。 - 雇用期間が1年以上見込まれること
- 月額賃金8.8万円以上
- 学生でないこと
複数の事業所で「健康保険・厚生年金保険」の加入要件を満たす場合
ケースは、少ないと思いますが、働き方によっては、複数の事業所で健康保険・厚生年金保険の加入要件を満たすことも考えられます。(たとえば、複数の特定適用事業所で「週20時間以上の所定労働時間」を満たす場合などです)
そういう場合の取扱いについては、厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」で、次のように明示されています。
同時に複数の事業所で就労している者が、それぞれの事業所で被保険者要件を満たす場合、被保険者は、いずれかの事業所の管轄の年金事務所及び医療保険者を選択し、当該選択された年金事務所及び医療保険者において各事業所の報酬月額を合算して、標準報酬月額を算定し、 保険料を決定する。
その上で、各事業主は、被保険者に支払う報酬の額により按分した保険料を、選択した年金事務所に納付(健康保険の場合は、選択した医療保険者等に納付)することとなる。
いつものことですが、すっごく読みづらいので、ポイントだけ抜き出しておきます。
- 賃金(給与)は合算して、健康保険・厚生年金保険料を計算する
- 保険料は、事業所ごとの賃金(給与)にあわせ、按分される
副業・兼業における「雇用保険」の取扱い
加入要件(条件)
雇用保険は、次の要件をいずれも満たす場合に、被保険者となります。
- 31日以上の雇用見込みがあること
- 1週間あたりの所定労働時間が20時間以上であること
ここでいう「31日以上の雇用見込み」とは、次のいずれかに該当する場合のことです。
- 期間の定めがなく雇用される場合
- 雇用期間が31日以上である場合
- 雇用契約に更新規定があり、31日未満での雇止めの明示がない場合
- 雇用契約に更新規定はないが同様の雇用契約により雇用された労働者が31日以上雇用された実績がある場合
複数の事業所で「雇用保険」の加入要件を満たす場合
雇用保険は、
「生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける雇用関係についてのみ被保険者となる」
とされていますので、原則として、給与が多い方の事業所で加入することとなります。
なので、健康保険・厚生年金保険のように、賃金(給与)を合算して、保険料が徴収されることはありません。(雇用保険料は、片方分だけってことです)
各事業所の勤務内容(勤務日数、賃金など)を合算して要件を満たしても、社会保険に加入することはできない
健康保険、厚生年金保険、雇用保険の加入要件は、「事業所ごとに判断する」とされています。
なので、もし、複数の事業所で勤務する人が、いくつかの事業所の労働時間等を合算して適用要件を満たしたとしても、健康保険、厚生年金保険、雇用保険に加入することはできません。
イメージとしては、こんな感じです。
【健康保険・厚生年金保険の加入要件】
【雇用保険の加入要件】
「社会保険に加入できない」ってことは、国民健康保険になっちゃうってことです。
また、雇用保険が未加入ということは、失業保険や育児休業給付などの支給を受けることは、原則できなくなります。
副業・兼業で働くときは、もしものときのためにも、どこかの事業所で、必ず社会保険へ加入しておきましょう。
社会保険の手厚さは、段違いですから。
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複数就業者が休業した場合、社会保険加入者であっても、十分な給付が受けられない!?
社会保険には、病気やケガ、または出産・育児などで働くことができなくなった場合、次のような給付制度(収入補填)があります。
- 傷病手当金
- 出産手当金
- 育児休業給付金
- 介護休業給付金
- 労災保険の休業(補償)給付
などなど。
基本的に、どの制度においても、被保険者である事業所(社会保険に加入している事業所)の休業前の給与(賃金)をもとに給付額が計算されますので、被保険者となっていない事業所の給与(賃金)は、計算対象となりません。
つまり、働き方によっては、十分な給付が受けられないってことになります。
複数の事業所で働く場合は、もしものときの「社会保険の給付額」についても、考えておくことをオススメします。
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まとめ
ここで、「複数就業者(副業・兼業者)の社会保険の取扱いと注意すること」についておさらいです。
- 社会保険の加入要件は、事業所ごとに判断されるため、各事業所の勤務内容(勤務日数、賃金など)を合算することはできない
- 同時に複数の事業所で社会保険の加入要件を満たした場合、
①健康保険・厚生年金保険では、賃金を合算して保険料を計算する
②雇用保険では、原則として、賃金の多い方の事業所で加入する - 社会保険は加入の有無だけじゃなく、もしものときの給付額も考慮したほうがいい
政府の働き方改革(副業・兼業の推進など)により、働き方の選択肢が増えるのは嬉しいのですが、社会保険制度の取扱いがすっごく複雑になっちゃうんですよね。
また、制度的に「???」って思っちゃうものもありますし。
社会保険制度って、ぼくたちが、安心して働くための大切な仕組みなので、しっかりと制度を理解しておきたいですよね~
副業(兼業)する、しないに、関わらず。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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