転職するとき、
「今の給料より多くもらいたい(給料アップを希望)」
って思いますよね?
もちろん、僕もそうです。
でも、自分のやりたい仕事や労働時間など、色々な条件を総合的に判断したとき、転職で給料が下がってしまうことってありますよね。
そんなとき、雇用保険(失業保険)の制度を利用することで、ハローワークに下がった給料(全部または一部)を手当として補填してもらうことできます。
ただ、転職で給料が下がれば、なんでもかんでも、手当が支給されるわけではありません。
就業促進定着手当をもらうには、3つの要件を満たす必要があります。
そこで、この記事では、「就業促進定着手当」における
- 3つの支給要件
- 支給金額の計算方法
- 申請手続き
について紹介しています。
「ハローワークで仕事を探さない」「失業保険をもらうつもりがない」という人でも、要件を満たせば、就業促進定着手当はもらうことができます。
退職(転職)を考えているという人は、ぜひ、チェックしてみてください。
就業促進定着手当とは?
就業促進定着手当とは、雇用保険の失業等給付の1つです。
再就職手当の支給を受けた人が、再就職先で6ヶ月以上働いたとき、その6ヶ月間でもらった賃金が前職の賃金より少ない場合にもらえます。
再就職手当をもらった人だけが受給できる手当なので、就業促進定着手当をもらえる人は、
- 再就職手当
- 就業促進定着手当
がダブルでもらえるってことになります。
ちなみに、再就職手当とは、退職した人がハローワークで雇用保険(失業保険)の手続きを行い、基本手当(失業保険)の所定給付日数の3分の1以上の支給日数を残して再就職した場合に受け取ることのできる手当です。
わかりやすく言うと、
「失業保険をもらえる期間が残っている状態で就職しても、その残った日数分を一時金で支給するから損しないよ(だから、早く就職してね)」
という手当です。
【関連記事】
再就職手当の受給要件や支給額については、こちらの記事で詳しく説明しています。
⇒再就職手当の支給額の計算方法と申請手続き【8つの要件を説明】
就業促進定着手当の支給を受けるには?【3つの要件】
次の3つの要件、すべてを満たした場合に、「就業促進定着手当」は支給されます。
- 再就職手当の支給を受けていること
- 再就職手当の支給を受けた再就職の日から同じ事業主に、6ヶ月以上、雇用保険の被保険者として、雇用されていること
- 再就職後6ヶ月間の賃金が、前職(離職前)の賃金より低いこと
それでは、1つずつ説明していきます。
再就職手当の支給を受けていること
再就職手当は、基本手当(失業保険)の所定給付日数の3分の1以上の支給日数を残して再就職した場合に受け取ることのできる手当です。
つまり、早期に再就職した場合に受け取れる手当ってことです。
なので、離職期間が長く、失業保険をすべて受け取った人などは、たとえ転職で給料が減ったとしても、就業促進定着手当はもらえません。
再就職手当の支給を受けた再就職の日から同じ事業主に、6ヶ月以上、雇用保険の被保険者として、雇用されていること
就業促進定着手当をもらうには、再就職の日から雇用保険に加入していないといけません。
そして、その事業所で6ヶ月以上、継続して雇用されていないといけません。
なので、次のような人は、就業促進定着手当をもらうことはできません。
- 再就職した事業所を6ヶ月未満で退職した場合
- 入職日から雇用保険に加入していたが、雇用期間が6ヶ月に達する前に、雇用保険を喪失した場合(雇用が継続していたとしても支給不可)
- 起業により、再就職手当の支給を受けた場合
ちなみに、雇用保険に加入するには、次の2つの条件をどちらも満たす必要があります。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
- 31日以上の雇用見込みがあること
正社員であれば、全く気にする必要はありませんが、非常勤(パートタイムやアルバイト)での就職の場合は、しっかりチェックしておきましょう。
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雇用保険の加入条件については、こちらの記事で詳しく説明しています。
⇒雇用保険の加入条件とは?【パート、アルバイト、派遣、学生、65歳以上】
再就職後6ヶ月間の賃金が、前職(離職前)の賃金より低いこと
就業促進定着手当は、再就職先の賃金と離職前の賃金の差額(全部または一部)を支給するものです。
なので、転職先の賃金が前職より高い場合は支給されません。
就業促進定着手当の支給額
支給額は、次の計算にて決定されます。
就業促進定着手当の支給額 =
(離職前の賃金日額 - 再就職後6ヶ月間の賃金日額)× 再就職後6ヶ月間の賃金支払基礎日数
離職前の賃金日額
離職前の賃金日額とは、離職前6ヶ月間の給与合計額(総支給額)を180で割った金額です。
「離職前6ヶ月間の給与合計額」に賞与は含みません。(年3回以下の支給の場合)
たとえば、月額給与が30万円の人なら、
300,000円 × 6ヶ月 ÷ 180 = 10,000円
となります。
なお、離職前の賃金日額には、次のとおり、上限額と下限額が設定されています。
賃金日額が上限額を超える場合は上限額に、下限額より低い場合は下限額となります。
【賃金日額の上限額・下限額一覧(令和6年8月1日現在)】
離職時の年齢 | 上限額 | 下限額 |
29歳以下 | 14,130円 | 2,869円 |
30~44歳 | 15,690円 | |
45~59歳 | 17,270円 | |
60~64歳 | 16,490円 |
再就職後6ヶ月間の賃金日額
再就職後6ヶ月間の賃金日額とは、再就職後6ヶ月間の給与合計額(総支給額)を180で割った金額です。
「再就職後6ヶ月間の給与合計額」に賞与は含みません。(年3回以下の支給の場合)
たとえば、月額給与が28万円の人なら、
280,000円 × 6ヶ月 ÷ 180 = 9,333円(1円未満の端数切り捨て)
となります。
再就職後6ヶ月間の賃金日額にも、離職前の賃金日額と同様に、上限額と下限額が設定されています。
【賃金日額の上限額・下限額一覧(令和6年8月1日現在)】
離職時の年齢 | 上限額 | 下限額 |
29歳以下 | 14,130円 | 2,869円 |
30~44歳 | 15,690円 | |
45~59歳 | 17,270円 | |
60~64歳 | 16,490円 |
再就職後6ヶ月間の給与合計額は、原則、再就職した最初の賃金締切日の翌日から起算した6ヶ月分の給与で計算します。
つまり、途中入職などで、給料が満額出なかった月を除いて計算するってことです。
ちなみに、日給制や時給制の場合は、次の計算でどちらか金額が高い方が、「再就職後6ヶ月間の賃金日額」となります。
- 再就職後6ヶ月間の給与合計額 ÷ 180
- (再就職後6ヶ月間の給与合計額 ÷ 賃金支払基礎日数)× 70%
【関連記事】
パートやアルバイトで再就職した場合の就業促進定着手当の計算方法と支給額について試算しています。
⇒就業促進定着手当はいくらもらえるの?【パート・アルバイトで再就職した場合】
再就職後6ヶ月間の賃金支払基礎日数
賃金支払基礎日数とは、賃金(給与等)を計算するための基礎になった日数のことで、
- 正社員などの常勤者(月給制)
- パートやアルバイトの非常勤者(時給制)
で、次のように取扱いが分かれます。
【常勤・非常勤における賃金支払基礎日数の取扱い】
- 常勤の場合は、休日を含めた1ヶ月の総日数
- 非常勤の場合は、1ヶ月の出勤日数(有給休暇の日数は、賃金支払基礎日数に含む)
つまり、常勤者(月給制)の場合は、1ヶ月は「28、29、30、31日」のいずれかになります。
もちろん、「再就職後6ヶ月間の賃金日額を計算した期間」と「再就職後6ヶ月間の賃金支払基礎日数を算出する期間」は同じになります。
就業促進定着手当の支給額
次の条件で、「就業促進定着手当」がどのくらいになるか計算してみます。
【試算の条件】
- 離職時の年齢:30~34歳
- 離職前6ヶ月間の月額平均給与:300,000円
- 雇用保険加入期間:5年以上10年未満
- 退職理由:自己都合退職
- 支給残日数:80日
- 再就職手当の支給率:70%
- 再就職後6ヶ月間の月額平均給与:280,000円
- 再就職後6ヶ月間の賃金支払基礎日数:184日
【試算結果】
- 離職前の賃金日額:10,000円
- 再就職後6ヶ月間の賃金日額:9,333円
- 再就職手当の額:341,712円
- 就業促進定着手当の額:122,728円
この条件の場合、
(10,000円-9,333円)× 184日 = 122,728円
となり、就業促進定着手当の支給額は「122,728円」となります。
と言いたいところですが、就業促進定着手当の支給額には上限があるため、今回試算した「122,728円」が上限額を超えてないか確認する必要があります。
就業促進定着手当の支給上限額の計算方法
就業促進定着手当には上限額があり、支給額が上限額を超える場合は、上限額が就業促進定着手当の支給額となります。
支給額は、次の計算で算出します。
就業促進定着手当の上限額 =
基本手当日額 × 支給残日数 × 割合(30% or 40%)
基本手当日額
失業保険(基本手当)が受給できる1日あたりの金額のことを「基本手当日額」といいます。
基本手当日額は、「賃金日額」の45~80%の範囲で設定され、次のように算出します。
出典:厚生労働省「雇用保険の基本手当日額が変更になります(令和6年8月1日から)」
たとえば、
- 離職時の年齢 30~34歳
- 賃金日額 10,000円
という条件で、基本手当日額を算出してみると、
0.8×10,000-0.3((10,000-5,200円)÷7,590)×10,000=6,102円
となり、基本手当日額は、6,102円となります。
また、就業促進定着手当の上限額を計算するときの「基本手当日額」には上限があり、次のようになっています。(再就職手当の上限額と同じです)
【令和6年8月1日現在の上限額】
- 離職時の年齢が60歳未満の場合 6,395円
- 離職時の年齢が60歳以上65歳未満の場合 5,170円
支給残日数
支給残日数とは、基本手当(失業保険)における所定給付日数の支給残日数のことです。
また、所定給付日数とは、基本手当(失業保険)をもらえる最大日数のことです。
つまり、就業促進定着手当の上限額を計算するときの「支給残日数」とは、所定給付日数のうち、基本手当(失業保険)をもらっていない日数のことをいいます。
たとえば、所定給付日数「90日」の人が「30日間」の基本手当(失業保険)をもらっている場合は、残りの「60日」が「支給残日数」ということになります。
ちなみに、所定給付日数は、退職理由と離職時の雇用保険の被保険者期間によって、次のように変わってきます。
【自己都合による退職(一身上の都合など)】
雇用保険の被保険者であった期間 | |||||
1年未満 | 1年以上 5年未満 |
5年以上 10年未満 |
10年以上 20年未満 |
20年以上 | |
全年齢 | - | 90日 | 90日 | 120日 | 150日 |
【会社都合等による退職(倒産、解雇等など)】
雇用保険の被保険者であった期間 | |||||
1年未満 | 1年以上 5年未満 |
5年以上 10年未満 |
10年以上 20年未満 |
20年以上 | |
29歳以下 | 90日 | 90日 | 120日 | 180日 | ー |
30~34歳 | 120日 | 180日 | 210日 | 240日 | |
35~44歳 | 150日 | 240日 | 270日 | ||
45~59歳 | 180日 | 240日 | 270日 | 330日 | |
60~64歳 | 150日 | 180日 | 210日 | 240日 |
割合(30% or 40%)
就業促進定着手当の上限額を計算するときの割合は、
- 再就職手当の支給率が70%の場合は「30%」
- 再就職手当の支給率が60%の場合は「40%」
となります。
就業促進定着手当の上限額の試算
就業促進定着手当の支給額を計算したときと同じ条件で、「就業促進定着手当の上限額」がどのくらいになるか計算してみます。
【試算の条件】
- 離職時の年齢:30~34歳
- 離職前6ヶ月間の月額平均給与:300,000円
- 雇用保険加入期間:5年以上10年未満
- 退職理由:自己都合退職
- 支給残日数:80日
- 再就職手当の支給率:70%
- 再就職後6ヶ月間の月額平均給与:280,000円
- 再就職後6ヶ月間の賃金支払基礎日数:184日
【試算結果】
- 基本手当日額:6,102円
- 割合:30%
- 就業促進定着手当の上限額:146,448円
この条件の場合、
6,102円 × 80日 × 30% = 146,448円
となり、就業促進定着手当の上限額は「146,448円」となります。
先ほど計算した就業促進定着手当の支給額は「122,728円」でした。
上限額は「146,448円」です。
結果、この条件における就業促進定着手当の支給額は「122,728円」となります。
就業促進定着手当 支給上限額早見表【令和6年8月1日現在】
就業促進定着手当の上限額の計算は面倒なので、パッ見でわかるように早見表を載せておきます。
「離職前6ヶ月間の月額平均給与」と、あなたの「所定給付日数」が交わるところが「就業促進定着手当の上限額(満額)」となります。
もし転職して給料が下がった場合に、「就業促進定着手当が、最大で、どのくらい支給されるのか」チェックしてみてください。
⇒就業促進定着手当(失業給付)支給上限額早見表20240801 ※クリック
就業促進定着手当の申請書類
就業促進定着手当をもらうには、次の4つの書類をハロワークへ提出します。
- 就業促進定着手当支給申請書
- 雇用保険受給資格者証
- 就職日から6ヶ月間の出勤簿(タイムカード)の写し
- 就職日から6ヶ月間の給与明細または賃金台帳の写し
1つずつ、説明していきます。
就業促進定着手当支給申請書
就業促進定着手当支給申請書は、再就職手当の支給決定通知書ともに、ハローワークから郵送で届きます。
申請時期まで大切に保管しておきましょう。
こんな様式です。
「事業主の証明(就職後6ヶ月間の基礎日数や賃金額など)」欄は、再就職先(事業所)に依頼して、記入してもらいましょう。
雇用保険受給資格者証
雇用保険受給資格証は、ハローワークで雇用保険(失業保険)の手続きを行うと、もらえる書類です。
こんな様式です。
就業促進定着手当の支給額を計算するときの「離職前の賃金日額」は、この雇用保険受給資格証で確認することができます。
14欄の「離職時賃金日額」が、「離職前の賃金日額」となります。
就職日から6ヶ月間の出勤簿(タイムカード)の写し
再就職先(事業所)に、就業促進定着手当支給申請書の記入とともに、発行を依頼しましょう。
就職日から6ヶ月間の給与明細または賃金台帳の写し
出勤簿(タイムカード)の写しと同様に、再就職先(事業所)に、就業促進定着手当支給申請書の記入とともに、発行を依頼しましょう。
就業促進定着手当支給申請書等の申請期間(期限)
申請期間は、再就職日から6ヶ月経過した日の翌日から2ヶ月以内です。
忘れずに申請しましょう。
とはいえ、就業促進定着手当の申請期間には、2年間の時効があるため、
「再就職日から6ヶ月経過した日の翌日から起算して2年を経過する日」
までは、申請(受給)が可能です。
一応、根拠です。
出典:厚生労働省「雇用保険の給付金は、2年の時効の期間内であれば、支給申請が可能です」
就業促進定着手当の申請から入金までの期間「3~4週間程度」
就業促進定着手当の支給申請書等をハローワークに提出してから、2~3週間程度で「就業促進定着手当支給決定通知書」が届きます。
こんなやつです。
出典:厚生労働省「雇用保険に関する業務取扱要領(令和4年10月1日以降)」
その後、1週間程度で、入金されます。
6ヶ月で退職する場合の取扱い(就業促進定着手当をもらって退職)
就業促進定着手当は、再就職手当の支給が受給要件となっています。
再就職手当の要件には、「1年を超えて勤務することが確実であると認められること」があるため、1年以上の勤務が原則です。
ただ、「長く働くつもりで入職したけど、思っていたのと違った・・・」みたいのって、普通にありますよね。
そういう場合でも、就業促進定着手当の3つの要件を満たしていれば、受給することができます。
【就業促進定着手当の3つの要件】
- 再就職手当の支給を受けていること
- 再就職手当の支給を受けた再就職の日から同じ事業主に、6ヶ月以上、雇用保険の被保険者として、雇用されていること
- 再就職後6ヶ月間の賃金が、前職(離職前)の賃金より低いこと
なので、
「雇用保険の被保険者として、6ヶ月以上雇用されたあとに、雇用保険の資格喪失や退職をした場合でも、就業促進定着手当の支給対象となる」
ってことです。
一応、根拠です。
就業促進定着手当の支給要件
(ロ)6か月以上雇用された後、支給申請時に既に離職していたとしても満たすものであること。
出典:厚生労働省「雇用保険に関する業務取扱要領(令和4年10月1日以降)」
ちなみに、再就職手当と就業促進定着手当は、受給後すぐに退職した場合でも、返納(返金)は不要です。
まとめ
ここで、「就業促進定着手当を受給するときの注意点」についてまとめておきます。
- 退職するときは、事業主から「離職票」をもらい、ハローワークで失業保険の手続きすること
- 再就職手当を必ずもらうこと
- 再就職先では雇用保険に加入し、6ヶ月間以上、勤務すること
就業促進定着手当は、再就職手当さえもらえれば、申請(受給)で困ることはないと思います。
ハローワークから案内が届きますし、申請書類も、ほぼ再就職先(事業所)が作成します。
なので、「再就職手当をもらう」っていうのがポイントです。
とはいえ、再就職手当の要件はそんなに難しくないため、雇用保険の被保険者であれば、結構な確率で支給が受けられると思います。
ちなみに、
「再就職手当って、ハローワークからの紹介じゃないと支給されないんでしょ?」
って思っている人が結構いるんですが、ぜんぜん、そんなことありません。
なので、無料で利用できる民間の人材紹介サービス(リクルートエージェントなど)で転職した場合でも受給できます。
また、再就職手当は、以前に比べ、給付率が上がったため、結構な金額になってます。
転職時には、ぜひ、活用ください。
もらわないのはもったいないと思います。
【関連記事】
再就職手当が受給できる人材紹介サービス(職業紹介事業者)については、こちらの記事で紹介しています。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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