転職するときって、ハローワークを利用していますか?
薬剤師さんの場合、ほとんどの人が利用していないと思うのですが・・・(僕の経験則です)
もし、そうだとすると、雇用保険から貰えていたはずの給付金(再就職手当)を受け取っていない可能性が高いです。
雇用保険は、掛け捨ての保険みたいなもので、使わなければ保険料を一生払うだけです。
さらに言えば、制度を知らなければ、使うことのできない保険です。
ハローワークなどの行政機関は、聞かないと教えてくれません。(そもそも、制度を知らないと、聞くこともできませんし・・・)
そこで、この記事では、転職を考えている薬剤師さんに知っておいてほしい雇用保険(失業給付)の「再就職手当」について紹介します。
薬剤師こそ「再就職手当」をもらおう
再就職手当とは、退職した人がハローワークで雇用保険(失業保険)の手続きを行い、基本手当(失業保険)の所定給付日数の3分の1以上の支給日数を残して再就職した場合に受け取ることのできる手当です。
わかりやすく言うと、
「失業保険をもらえる期間が残っている状態で就職しても、その残った日数分を一時金で支給するから損しないよ」
という制度です。
なので、
- 失業保険をもらうつもりはない
- 何ヶ月も休むつもりはない
という人でも受給できます。
薬剤師さんの場合、超売り手市場で有効求人倍率が高く、早期の再就職がしやすいため、失業保険の所定給付日数分(給付最大日数)を「再就職手当」として受取れる可能性が高いです。
つまり、再就職手当の最大額(満額)が支給されるってことです。
再就職手当の受給要件と受給時の注意点
再就職手当の支給を受けるには、次の8つの要件を、すべて満たす必要があります。
- ハローワークで手続きを行い、待機期間(7日間)後の就職であること
- 失業保険の支給残日数が、所定給付日数の3分の1以上であること
- 離職前の事業所(会社等)に再び就職したものでないこと
- 給付制限(2ヶ月または3ヶ月)がある場合、待期期間(7日間)後の最初の1か月間については、ハローワークまたは職業紹介事業者等の紹介で就職したものであること
- 1年を超えて勤務することが確実であると認められること
- 雇用保険の被保険者要件を満たす条件での雇用であること
- 過去3年以内の就職について、再就職手当又は常用就職支度手当の支給を受けていないこと
- 受給資格決定(求職申し込み)前から採用が内定していた事業主に雇用されたものでないこと
「8つも要件があるの!?」って思うかもしれませんが、見てのとおり、難しい要件はありません。
雇用保険の被保険者であれば、ほとんどの人が支給が受けられると思います。
あえて言うなら、次の3つだけ注意しておけばOKです。
- 退職前に転職先の内定をもらわないこと
- 転職先でも雇用保険に加入すること
- 人材紹介サービスを利用すること(ハローワークじゃなくてもOK)
もちろん、8つの要件を満たせば、
- パート・アルバイト(非常勤)で勤務していた人
- パート・アルバイト(非常勤)で就職した人
でも再就職手当をもらうことができます。
【詳細記事】
再就職手当の8つの支給要件について、詳しくは、こちらの記事を。
⇒再就職手当の支給額の計算方法と申請手続き【8つの要件を説明】
再就職手当の計算方法
再就職手当の支給額は、次の計算にて決定されます。
再就職手当の支給額 = 基本手当日額 × 所定給付日数の支給残日数 × 支給率(60% or 70%)
基本手当日額の計算方法
失業保険(基本手当)が受給できる1日あたりの金額のことを「基本手当日額」といいます。
基本手当日額は、「賃金日額」の45~80%の範囲で設定されます。
こんな感じです。
出典:厚生労働省「雇用保険の基本手当日額が変更になります(令和6年8月1日から)」
たとえば、
- 離職時の年齢 30~34歳
- 賃金日額 10,000円
という条件で、基本手当日額を算出してみると、
0.8×10,000-0.3((10,000-5,200円)÷7,590)×10,000=6,102円
となり、基本手当日額は、6,102円となります。
また、再就職手当における「基本手当日額」には上限があり、次のようになっています。
【令和6年8月1日現在の上限額】
- 離職時の年齢が60歳未満の場合 6,395円
- 離職時の年齢が60歳以上65歳未満の場合 5,170円
所定給付日数の支給残日数
繰り返しにはなりますが、所定給付日数は、基本手当(失業保険)をもらえる最大日数のことです。
そして、再就職手当を計算するときの「所定給付日数の支給残日数」とは、所定給付日数のうち、基本手当(失業保険)をもらっていない日数のことです。
日数は、次のとおり。
【自己都合による退職(一身上の都合など)】
雇用保険の被保険者であった期間 | |||||
1年未満 | 1年以上 5年未満 |
5年以上 10年未満 |
10年以上 20年未満 |
20年以上 | |
全年齢 | - | 90日 | 90日 | 120日 | 150日 |
【会社都合等による退職(倒産、解雇等など)】
雇用保険の被保険者であった期間 | |||||
1年未満 | 1年以上 5年未満 |
5年以上 10年未満 |
10年以上 20年未満 |
20年以上 | |
29歳以下 | 90日 | 90日 | 120日 | 180日 | ー |
30~34歳 | 120日 | 180日 | 210日 | 240日 | |
35~44歳 | 150日 | 240日 | 270日 | ||
45~59歳 | 180日 | 240日 | 270日 | 330日 | |
60~64歳 | 150日 | 180日 | 210日 | 240日 |
支給率(60% or 70%)
支給率は、早く再就職したほうが給付率が高く、
- 所定給付日数の3分の1以上を残して就職した場合は、支給率「60%」
- 所定給付日数の3分の2以上を残して就職した場合は、支給率「70%」
となります。
わかりやすく一覧にすると、こんな感じです。
出典:ハローワーク「雇用保険の失業等給付受給資格者のしおり」
再就職手当の試算
次の条件で、「再就職手当」がどのくらいになるか計算してみます。
【試算の条件】
- 離職時の年齢:30~34歳
- 離職前6ヶ月間の月額平均給与:300,000円
- 雇用保険加入期間:5年以上10年未満
- 退職理由:自己都合退職
- 支給残日数:90日(給付制限中に就職)
【試算結果】
- 基本手当日額:6,102円
- 所定給付日数の支給残日数:90日
- 支給率:70%
- 再就職手当の支給額:384,426円
この条件の場合、再就職したときに、384,426円が給付されます。
結構、強烈な「就職お祝い金」になりますよね・・・
再就職手当の金額【令和6年8月1日以降】
再就職手当の計算は面倒なので、支給額がパッとわかるように
- 再就職手当の1日あたり支給額早見表
- 再就職手当(失業給付)支給額早見表
を載せておきます。
ぜひ、あなたがいくらもらえるのか、チェックしてみてください。
再就職手当の1日あたり支給額早見表
「離職前6ヶ月間の月額平均給与」とあなたの「所定給付日数の支給残日数」が交わるところが「再就職手当の1日あたり支給額」です。
⇒再就職手当の1日あたり支給額早見表20240801 ※クリック
再就職手当(失業給付)支給額早見表
「離職前6ヶ月間の月額平均給与」と、あなたの「所定給付日数」が交わるところが「再就職手当支給合計額(満額)」です。
⇒再就職手当(失業給付)支給額早見表20240801 ※クリック
【関連記事】
「再就職手当を満額もらうとき注意することは?」という人は、こちらの記事をご覧ください。
再就職手当をもらうための手続き
受給手続きの流れとしては、次のようになります。
- ハローワークへ離職票などの必要書類を持参する
- 就職・転職活動を行い、再就職が決まったらハローワークへ連絡し、手続きをする
- 「再就職手当支給申請書」に、事業主の証明をもらい、ハローワークへ提出する
- 再就職手当が入金される(申請後、1ヶ月半~2ヶ月程度)
1つずつ、詳しく説明していきます。
1.ハローワークへ離職票などの必要書類を持参する
再就職手当を受給するためには、次の書類を持ってハローワークに行き、手続きをします。
【必要書類】
- 離職票-1
⇒氏名や口座番号などを記入 - 離職票-2
- マイナンバーカード(マイナンバーカードを持ってない場合は、次の①②が必要です)
①個人番号確認書類(いずれか1種類)
⇒通知カード、個人番号の記載のある住民票(住民票記載事項証明書)
②身元確認書類(いずれか1種類)
⇒運転免許証、運転経歴証明書、官公署が発行した身分証明書・資格証明書(写真付き)など - 本人の印鑑(認印で可)
⇒スタンプ印は不可 - 写真2枚(最近の写真、正面上半身、縦3.0cm×横2.5cm)
- 本人名義の預金通帳
- 船員であった方は船員保険失業保険証および船員手帳
あとは、ハローワークの職員さんが案内してくれるので安心です。
ちなみに、「1.離職票-1」と「2.離職票-2」については、後日提出でOKです。
その際は、離職票の代わりに「退職したことがわかる書類(退職証明書など)」を持っていきましょう。
そうすれば、退職日の翌日からハローワークで手続きができますよ。
【詳細記事】
⇒離職票が届く前に手続き可能!失業保険を早くもらう方法【ハローワーク確認】
2.就職・転職活動を行い、再就職が決まったらハローワークへ連絡し、手続きをする
再就職が決まったら、ハローワークへ連絡しましょう。
そして、ハローワークの案内に従い、就職の手続き(就職日前日までの失業認定手続き)を行います。
就職の手続きは、原則、就職日(入職日)の前日にハローワークに訪問し、行います。
手続きに持っていくものは、次の3つです。
- 雇用保険受給資格者証
- 失業認定申告書
- 採用証明書(別紙1)
こんな様式です。(ハローワーク「雇用保険の失業等給付受給者のしおり」からの引用です)
【雇用保険受給資格者証】
【失業認定申告書】
【採用証明書(別紙1)】
3.「再就職手当支給申請書」に、事業主の証明をもらい、ハローワークへ提出する
再就職手当の受給要件に該当する場合、ハローワークから「再就職手当支給申請書」を渡されます。
こんな書類です。
出典:ハローワークインターネットサービス「再就職手当支給申請書」
事業主の証明をもらったら、「再就職手当支給申請書」とともに、次の書類をハローワークへ提出します。
【提出書類】
- 再就職手当支給申請書
- 雇用保険受給資格証
- その他、ハローワーク等の求める書類
申請期限(期間)は、就職日の翌日から1ヶ月以内です。
ただ、再就職手当は2年間の時効があるため、「1年を超えて引き続き雇用されることが確実と認められる職業に就いた日の翌日起算して2年を経過する日」までは、申請(受給)が可能です。
4.再就職手当が入金される(申請後、1ヶ月半~2ヶ月程度)
「再就職手当支給申請書」を提出してから約1ヶ月後に、勤務実態についての調査が行われ、その後「支給決定通知」書類が届き、再就職手当が口座に入金されます。
なので、「再就職手当支給申請書」を提出してから入金されるまでの期間は、1ヶ月半~2ヶ月程度となります。
なぜ、薬剤師はハローワークを利用しないのか?
僕は、仕事柄、多くの職員さんの社会保険手続き(入職・退職など)を行います。
仕事が、医療・介護業界ということもあり、職種はさまざまです。
たとえば、
- 医師
- 看護師(准看護師)
- 介護福祉士(介護職員含む)
- 薬剤師
- 理学療法士
- 作業療法士
- 言語聴覚士
- 放射線技師
- 検査技師
- 管理栄養士
- 歯科衛生士
- 事務員
などなど。(きりがないのでこの辺で・・・)
こういった、色々な職種の採用活動を行っていて感じるのは、
「比較的、事務員や介護福祉士(介護職員含む)の場合は、ハローワークを利用するけど、薬剤師などの医療技術者でハローワークを利用している人は、ほとんどいない」
ってことです。
つまり、薬剤師さんの場合、「再就職手当をもらっていない人が多い」ってこと。
そこで、入職いただいた薬剤師さんに「ハローワークを利用しない理由」を聞いてみました。
- ハローワークより、人材紹介サービスの方が便利だから
⇒いい条件の求人も多い - 「2~3ヶ月(給付制限)」も休むつもりがない(失業保険をもらうつもりがない)
⇒すぐに次の職場を探す予定 - ハローワークで仕事を探す気がない
- 転職先を決めてからじゃないと不安
はっきり言って、どの理由においても、ハローワークを利用したほうがお得です!!
さらに言えば、ここで挙げた「ハローワークを利用しない理由」については、雇用保険制度を知らないことでおきている「勘違い」です。
薬剤師が「ハローワークを利用しない理由」は、ほぼ勘違い!?
「なぜ、勘違いなのか?」について、1つずつ説明していきます
ハローワークより、人材紹介サービスの方が便利だから
これ、ほんと、そのとおりなんです。
ハローワークで仕事を探すより、民間の人材紹介サービス(ファルマスタッフ ・レバウェル薬剤師など)を使ったほうがぜんぜんいいと思います。
いい求人も多いですし。
ただ、ハローワークを利用(登録)しながら、人材紹介サービスを使って就職しても「再就職手当」は支給されます。
なので、「ハローワークより、人材紹介サービスの方が便利だから」という理由では、ハローワークを利用しない理由にはなりません。
「2~3ヶ月(給付制限)」も休むつもりがない(失業保険をもらうつもりがない)
再就職手当は、給付制限期間中(2ヶ月または3ヶ月)に再就職しても支給されます。
ですので、
「失業保険は、2~3ヶ月間は支給されないから、ハローワークの手続きをする必要はない」
と考えているのだとしたら、それは勘違いです。
たしかに、失業保険(基本手当)は、自己都合退職の場合、2~3ヶ月間支給されません。
でも、ハローワークの手続きをするのは、失業保険(基本手当)をもらうためだけではありません。
「再就職手当」を受給するために、ハローワークの手続きをしましょう。
ただし、給付制限期間中(2ヶ月または3ヶ月)に再就職する場合は、1つだけ注意してください。
それは、再就職手当の受給要件の中にある
「給付制限がある場合、待期期間(7日間)後の最初の1か月間についてはハローワークまたは許可・届出のある職業紹介事業者等の紹介で就職したものであること」
という項目です。
なので、給付制限期間中(最初の1か月間)に就職する場合は、再就職手当が支給される職業紹介事業者等を利用するようにしてください。
【関連記事】
再就職手当が支給される「薬剤師に特化した転職支援サービス(職業紹介事業者等)」を、こちらの記事で紹介しています。
⇒許可・届出のある職業紹介事業者等の定義とは?【再就職手当の要件】
ハローワークで仕事を探す気がない
いいんです。
ハローワークで仕事を探さなくても。
ハローワークの手続き(登録)を行い、無料で便利な人材紹介サービス(ファルマスタッフ ・お仕事ラボなど)を利用して再就職しましょう。
そして、「再就職手当」をもらいましょう。
転職先を決めてからじゃないと不安
こういう人、すっごく多いと思います。
僕も、激しく同意しますし。
でも、薬剤師さんの場合は、超人材不足の職種ということもあり、「なかなか次の職場が決まらない」ということは、ほぼありません。
人材紹介サービスを利用すれば、あなたの希望に合った職場をすぐに探してくれますし。
なので、不安を感じることなく「まず退職」という選択をして、「再就職手当」をもらいましょう。
まとめ
ここで、薬剤師さんが「再就職手当」を受給する時の注意点について、まとめておきます。
- 現在の職場を退職する前に、転職先(次の職場)を決めないこと
⇒就職の内定をもらわないこと - 退職時に、「離職票」を必ずもらうこと
- 「離職票」が届いたら、ハローワークへ失業保険の手続きに行くこと
- 人材紹介サービス(エージェントサービス)を利用し、待機期間(7日間)以降に入職すること
- 就職後(入職後)に、「再就職手当支給申請書」をハローワークに提出すること
手続きについては、ハローワークの担当者が色々と案内してくれますので、
「離職票を持って、まず、ハローワークに行く」
ということが大切だと思います。
手続きが面倒かも知れませんが、再就職手当は、以前に比べ、給付率が上がったため、結構な金額になってます。
もらわないのはもったいないと思います。
ちなみに、「再就職手当」は、退職日までに次の職場の内定をもらわなければ受給できるので、事前に、無料で利用できる人材紹介サービス(ファルマスタッフ ・レバウェル薬剤師など)に登録して、色々な事業所(病院や調剤薬局など)の情報を集めておくことは全く問題ありません。
また、内定をもらわなければいいので、面接を受けても平気ですよ。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
【あわせて読みたい】
コメント